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五輪出場選手へのワクチン優先接種、実現したら法的問題はない?

五輪が日本社会を分断?

Q.優先順位を、現状のまま維持することを求めるための法的手段はないのでしょうか。

佐藤さん「ワクチン接種の優先順位をどうするのかは国レベルでの政治判断になります。裁判などの法的手段をとるためには、個人としての具体的な権利侵害を主張する必要がありますが、まだ検討中の事柄でありますし、仮に決定されたとしても『五輪の選手を優先接種の対象に含めたことにより、私の法律上保護された具体的権利が侵害された』と主張することは難しいでしょう。

また先述した通り、現状、限られたワクチンを誰にどのような順番で接種を認めるのかという問題は、国民の生命や人権にかかわる問題ではあるものの、その是非を司法の場で判断することが適切ではないとされる可能性もあります。司法府は広く社会的利害に関する資料を集めることに適しておらず、有権者に対して直接、政治責任を負うこともないからです。

こうした問題は法的手段に訴えるというよりも、社会の中でさまざまな議論をして進めていくべき問題だと思います」

Q.選手のワクチン優先によって接種が遅れた高齢者や基礎疾患のある人がいた場合、その人が新型コロナに感染して亡くなったり、後遺症が出たりしたとしたら、「ワクチンが接種できていれば感染を防げた可能性がある」として賠償請求はできるでしょうか。

佐藤さん「高齢者や基礎疾患のある人が新型コロナに感染し、不幸にも亡くなったり、後遺症が出たりしたとしても、その原因が『選手のワクチン優先接種によって、接種が遅れたから』と証明することは難しく、誰にどのような順番でワクチン接種を認めるのかという国の判断に対して、法的に賠償請求することは困難だと思います」

Q.今回の件で、東京五輪への反対の声がさらに強まると考えられます。何の罪もない選手たちが批判されてしまうことも想定されます。そのような点も含め、言及したいことがあればお願いします。

佐藤さん「選手の皆さんについてですが、ワクチンの優先接種について決めるのは国であり、今後、仮に優先接種する選手が出てきたとしても、選手には法的にも道義的にも一切責任はありません。『平和の祭典』といわれる五輪は異なる者同士がお互いを理解し合い、平和でよりよい世界を実現するという精神で行われるものです。しかし、コロナ禍での実施を検討する中で、ワクチンの優先接種の問題を含め、社会に大きな分断をもたらしているように感じます。

さまざまな意見の対立を調整し、社会全体の利益を増進することこそ、政治の役割です。政治家の皆さんには、しっかり国民の声に耳を傾け、日本全体の利益を考えたときにどうすることが最適なのか、じっくり検討していただきたいと思います」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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