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人の声勝手に作ったらアウト? 声優・津田健次郎さんの「AI模倣音声」巡り…声の権利認める初の司法判断【弁理士解説】

「人の声は個人の人格の象徴」と示されたことで、今後類似の事件が起きた場合、どのような結果が想定されるのでしょうか。弁理士が解説します。

声優の津田健次郎さん(2026年9月3日、時事通信フォト)
声優の津田健次郎さん(2026年9月3日、時事通信フォト)

 生成AI(人工知能)で自身の声を模倣した動画が無断で投稿されたとして、声優の津田健次郎さんが動画共有アプリ「TikTok」(ティックトック)の運営会社に動画の削除を求めた訴訟の判決が9月30日、東京地裁でありました。

 裁判長は「人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴だ」との判断を示し、人の声も有名人の集客力やブランド力を守る「パブリシティー権」の保護対象になり得ると国内で初めて明示し、ネット上で大きな話題となりました。一方、裁判中に対象の動画がすでに削除されたとして、津田さんの声の権利が侵害されたかについては判断されませんでした。

「人の声は個人の人格の象徴」と示されたことで、今後類似の事件が起きた場合、どのような結果が想定されるのでしょうか。知的財産権に関する業務を行う弁理士の永沼よう子さんに聞きました。

法務省も「声」が法的保護の対象になると明記

Q.東京地裁で9月30日に「人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴」と日本で初めて判断され、大きな話題となりました。そもそも、これまで人の声が顔写真(肖像)のように法的保護の対象として明示されてこなかったのは、どのような理由があったと考えられますか。

永沼さん「『声』が肖像と同じように明確に議論されてこなかった背景ですが、技術的な事情も大きかったと思います。写真や映像は、本人の肖像を複製利用することは以前から技術的にも容易でしたから、問題も多くありました。

声については、第三者が本人と区別できないほど精巧に声を再現し、しかも大量に利用することは簡単ではありませんでした。ところが生成AIの登場により、本人が話していない言葉さえも、あたかも本人が話しているかのような声で生成することが可能になり、対応が必要な状況になりました。

これまで著名人の氏名や肖像が持つ人を引きつけ、商品を買わせたり集客したりする力、いわゆる『顧客吸引力』については、パブリシティー権による保護が認められてきました。

一方で『声』については、今回の判決に先立ち、法務省も今年8月にホームページで、声優らの『声』も法的保護の対象になると明記した解釈指針を公表しました。

そのような流れの中、今回、東京地裁が明確に『人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができる』と判断したことには、大きな意味があると考えています」

「本人の声を使っていないからOK」は通用しない?

Q.今回の判決を踏まえ、今後、SNSや動画配信などで他人の声を勝手に模倣して投稿、販売するケースがあった場合、法的リスクはどう変化する可能性があるのでしょうか。弁理士としての見解をお聞かせください。

永沼さん「今回の判決によって、特に著名な声優、俳優、歌手、ナレーターなどの声をAIで模倣し、人気にあやかって集客や収益化のために利用する行為は、これまで以上に法的リスクを意識する必要があります。

裁判所は、例えば実演家の声が『顧客吸引力』を持ち、その声を使用する行為が、『専らその声の有する顧客吸引力の利用を目的とするものといえる』ときは、パブリシティー権の侵害になり得るという考え方を示したからです。

ちなみに、ものまねなどで似ている声を発したら一律にパブリシティー権侵害になるというわけではありません。今回の判決でも、声に顧客吸引力があることや、その顧客吸引力を利用する目的があることが問題とされていますから、利用方法に応じた個別の判断になります。

一方、生成AIの場合は、本人が一度も発していない言葉まで本人そっくりの声で大量に生成し、それをSNSや広告、商品などに利用することが簡単にできます。その意味では、従来の『ものまね』とは規模も精度も利用方法も大きく異なります。

今後は『本人の音声データをそのまま使っていないから問題ない』『AIが生成した音声だから問題ない』という説明では、必ずしも法的リスクを回避できないと考えた方がよいでしょう。今回の津田さんの裁判の判決で特に注目すべきは、『声』について、パブリシティー権による保護の可能性が司法判断として初めて明確に示されたことです。

ただし、本件では問題となった動画がすでに削除されていたため、裁判所は最終的にこの動画が津田さんのパブリシティー権を侵害したかどうかまでは判断しませんでした。

今回示されたのはいわばこれからの判断の枠組みです。その枠組みを受け、具体的にどのような利用が権利侵害となるのかについては、今後の事例を見ていく必要があるでしょう。声はその人らしさを形づくる人格の一部でもあるということが示された今回の判断は、重要な一歩だと思います。

海外でも、本人に酷似した声を商業的に利用し、パブリシティー権の侵害と判断された例があります。本人の声やアイデンティティーをどう守るかという議論が各国で急ピッチで進んでいます」

Q.「パブリシティー権」は芸能人・声優などの有名人、つまり顧客吸引力がある人が対象ですが、有名人でなくても、自分の声がAIで無断作成、悪用された場合、問題になる可能性はあるのでしょうか。

永沼さん「はい、十分に問題になる可能性があります。パブリシティー権は、その人の氏名や肖像などが持つ『顧客吸引力』を保護するものです。

肖像権は、著名人だけではなく一般人にも認められる人格的利益です。法務省が8月に公表した報告書でも、パブリシティー権だけでなく肖像権の侵害について検討しています。その中で、声についても『声をみだりに利用されない権利』として人格的利益を保護する解釈が示されました。

今回の判決でも、『人の声は肖像と同様に個人の人格の象徴』であることが示されており、その意味で一般人の声の保護にもつながり得る重要な判断です。

今回はパブリシティー権が注目される事案でしたが、一般の人の声についても、今後、パブリシティー権とは別に、人格的利益の侵害が問題になる可能性があります。『有名人のものでなければ自由にAIで声を作ってよい』とは決して言えません」

(オトナンサー編集部)

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永沼よう子(ながぬま・ようこ)

弁理士

2012年、AIPE認定知的財産アナリストを取得。2015年、弁理士に登録。2019年から国際特許事務所で代表弁理士を務める。「国際女性デー HAPPY WOMEN」知的財産担当・実行委員弁理士、「渋谷芸術祭」知的財産担当、「経済産業省」地域団体商標活用プロジェクト・講師なども経験。専門分野は商標・著作権・デザイン・特許・肖像権・不正競争防止法・キャラクター、オリンピック関連問題・知財教育。

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