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「読み聞かせ動画」投稿に見る日本人の低い著作権意識、なぜ違反繰り返す?

絵本の読み聞かせ動画の投稿が著作権法違反に当たるとして、出版社などが控えるように呼び掛けています。なぜ、著作権法違反が繰り返されるのでしょうか。

読み聞かせ動画を勝手に投稿すると…
読み聞かせ動画を勝手に投稿すると…

 新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛で、自宅で過ごす時間が多くなった子どもたちのために、絵本の読み聞かせ動画のネットへの投稿が広がっていますが、出版社などの許可なく投稿することは「著作権法に違反する」として、出版社が投稿を控えるように呼び掛けています。

 今回のことに限らず日本では、一般人が著作権法に違反することを知らないまま、動画や漫画などのコンテンツを無断使用することが多いと思います。日本人はなぜ、著作権への意識が低いのでしょうか。

 知的財産権に詳しい芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

複製権と公衆送信権の侵害

Q.日本では、動画や漫画などのコンテンツが無断使用され、著作権法に違反することが多いです。なぜ、著作権への意識が低いのでしょうか。

牧野さん「日本人が著作権への意識が低いといわれるのは、『どのようなことをすれば著作権法違反になるのか』を教育機関などで教わる機会がないからだと思います。違法であることを教われば、多くの日本人はきちんと理解するのではないでしょうか。

最近の例では、漫画村の運営者らの摘発は、他人の著作物を許可なくネット上で公開することは違法な犯罪行為であり、いつかは犯人が逮捕され得ることが社会的に認知された好例だと思います。

また、著作権の権利者団体の啓蒙(けいもう)活動(日本民間放送連盟『違法だよ!あげるくん』の動画など)により、『著作物の許可なきアップロードが違法で罰則がある』という理解が、特に若者をはじめとして広がってきています」

Q.無断でコンテンツを二次使用して著作権法に違反した場合、違反者はどのような法的責任を問われますか。また、有名な著作権法違反の裁判は。

牧野さん「SNSなどに掲載した場合は複製権と公衆送信権の侵害となり、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、またはそれらの両方が刑罰として科されます。

加えて、出版社などから民事上の莫大(ばくだい)な損害賠償の請求を受ける可能性があります。数百億円から数千億円以上の損害額が算定されることもあり得ます。

有名な著作権法違反の裁判では、やはり漫画村事件が挙げられます。共犯者には懲役1年6月、執行猶予3年、罰金50万円などの判決が出ていますが、首謀者とされる人物にはまだ判決が出ていません」

Q.著作権法違反の取り締まりがあまり行われず、抑止力が働いていないことはありませんか。

牧野さん「漫画村のように、大規模に著作権法違反を行った場合は摘発されていますし、個人が無断で動画を月に数本アップするぐらいでも摘発される可能性はあります。しかし、捜査機関の要員には限界があるので、重大事件が中心にならざるを得ないのでしょう」

Q.今回の絵本の読み聞かせ動画のように、子どもたちへの善意でコンテンツを無断使用してしまうことでも、法的責任は問われるのでしょうか。

牧野さん「非営利目的の上演や演奏、上映、口述は、実演者の報酬がなく観衆から料金を徴収しないなど一定の条件が満たされると許されますが(著作権法38条)、ネット上にコンテンツをアップロードする『公衆送信』は非営利目的であっても許されていません。

たとえ善意の行為であったとしても、複製権と公衆送信権の侵害となり、10年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金、またはそれらの両方が刑罰として科されます。その刑事告発に加えて、民事上の損害賠償と差し止めの請求を受ける可能性があります」

Q.絵本の件は既に出版社の呼び掛けが始まっていますが、もし、呼び掛けがされていなかった場合、「違法だと知らなかった」と開き直る投稿者も存在すると思われます。違法との認識がなくても罪になる仕組みとは。

牧野さん「罪を犯す意思(故意)がない行為は、法律に特別の規定(過失致死、過失傷害などの過失犯の規定)がある以外は処罰されません(刑法38条1項)。著作権の侵害は、著作権法119条1項で、過失犯を罰していませんので原則としては処罰されません。

しかし、『法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない』という条項が、刑法38条3項にあります。例えば、『アップロードは違法である』という広報が多数なされていて、それを知っていたはずである場合は『罪を犯す意思がなかったとすることはできない』とされる可能性があります。

ただし、『情状により、その刑を減刑することができる』(刑法第38条3項)可能性はあります。

他方で、著作権侵害による民事責任(民事上の損害賠償請求を受ける可能性)については、故意がある場合はもちろん、過失(不注意で他人の著作物であることを知らなかった、など)についても責任を負います。差し止め請求は故意過失が要件ではないので、故意過失がなくても著作権侵害があれば自動的に差し止め請求が認められます」

Q.どのようにすれば、「コンテンツには著作権があり、安易に無断使用してはいけない」という認識が広がると思われますか。

牧野さん「権利者団体による広範な啓蒙活動と、民事訴訟の提訴や刑事事件への摘発を厳しく行うことで、著作権侵害が犯罪であることは世論として形成されつつあると思います。すべての国民が認識するためには、これらの活動を地道に強化していくことに尽きるのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

コメント

1件のコメント

  1. 故意の内容が間違ってるぞ。
    故意がないとは「自分のやっていることが違法だと知らなかった」という意味ではない。それは「法律の錯誤」で故意を阻却しないというのは刑法の基礎中の基礎。故意は法令違反であることを知らなくても自分の行為の意味の認識があれば足りる。具体的には、自分のやっていることが「他人の作品を無断でアップロードしたこと」だと認識していれば意味の認識があるので故意はある。
    過失になるのは「間違ってアップロードした」とか、「許可があると思っていた」「自分の作品だと思っていた」などという「事実の錯誤」とかの場合だ。

    だから、出版社が告知をしなくても、「出版物を読み上げる様子をアップロードしている」ということを本人が理解していればそれで故意としては十分。ネットにつながっていることを忘れてうっかり読み聞かせをしていたらそれがダダ漏れになっていたなんて場合が「過失」。