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一度は風邪と診断…5歳女児を恐ろしい麻疹から救う【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構える医師の著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

麻疹ワクチン
麻疹ワクチン

 筆者は、千葉市の中心部からやや離れたところで小児クリニックを構えている医師です。あまり特徴のない開業医ですが、大学病院にいた頃は小児外科医として約1800人の子どもの手術をしましたので、さすがに手術が必要になる病気については詳しいです。

 さて、開院した日は、2006年の大型連休明けでした。

38度の熱と咳、風邪と診断して帰宅させると…

 その日にやってきた5歳の女の子は、38度の発熱と咳(せき)がありました。一通り診察してみると、特に気になる症状はなく、筆者は「風邪でしょう」と告げて帰宅させました。数日して、再び親子が来院しました。お母さんが心配そうな顔をしています。

「いったん下がった熱が、また上がってきたんです。そうしたら、この子、何だかとても元気がないんです。様子を見ようと思ったんですが、ほら、顔に赤い発疹が…」

 なるほど、確かに先日診たときのような元気がありません。それに、顔から首に広がった発疹は3ミリくらいの丸い形で、いくつも出ています。子どもが風邪の際に発疹を伴うことはよくありますが、筆者はその子にある発疹をかなり昔に診たような記憶がありました。

(これってまさか…)

 筆者は親子に、隔離診察室に入ってもらいました。開院してまだ数日ですから、筆者のところには、千葉市から感染症に関する流行状況の連絡などはまだ届いていませんでした。つまり、千葉市でどういう病気が流行しているのか、知るすべがなかったのです。

 そこで思い切って、市立病院の小児科の先生に電話を入れてみました。そして、患者の状態を説明し、アドバイスを求めました。

「もしかしたら、それは麻疹(はしか)かもしれないね。千葉市で患者が何人か出ているという情報があるんです」

 筆者は隔離室に入っていき、お母さんに麻疹の可能性を話して、女の子の血液を採らせてもらいました。ちなみに、麻疹では、頬の内側の粘膜に「コプリック斑」という白い点々が出るのですが、その子にはありませんでした。1歳のときに麻疹の予防接種を打ったと言っていたので、そのせいかもしれません。

 麻疹には、外来でできる治療はありません。自宅での安静を指示し、容態が悪化したら、すぐに連絡するようお母さんに伝えました。そして、血液検査の結果はやはり麻疹でした。幸い、その子はそのまま回復して元気になっていきました。

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松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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