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直腸がんは「人工肛門」が必要に? “肉の食べ過ぎ&便秘”に潜む誤解と本当のリスク【専門医解説】

直腸がんのリスクを高める生活習慣とは?

 直腸がんのリスクを高めてしまう生活習慣について、気になる人は多いと思います。まず前提として、直腸がんを含む大腸がんは、「一つの生活習慣が原因で発症する病気」ではありません。

 年齢や家族歴、遺伝的な背景、炎症性腸疾患など自分では変えられない要因と、飲酒、喫煙、肥満、身体活動、食生活などの要因が複雑に関係しています。

 従って、「肉を食べたから直腸がんになった」「便秘だから直腸がんになった」というように、特定の一つの原因に結びつけるのは医学的には正確ではありません。

 生活習慣の中で、まず注意したいのは飲酒です。日本人を対象とした研究でも、飲酒は大腸がんのリスク上昇との関連が確認されています。がん予防という観点では、「健康のために飲酒を始める」という考え方はなく、飲酒する人は量をできるだけ控えることが大切です。

 喫煙についても、大腸がんのリスクとの関連が示されています。禁煙は大腸がんだけでなく、肺がんをはじめとする多くのがんや心血管疾患の予防にもつながります。

 食生活でよく質問されるのが肉です。牛肉や豚肉などの赤肉や、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉を多く摂取することは、大腸がんのリスク上昇との関連が指摘されています。

 ただし、「肉を食べると大腸がんになる」と考えるのは行き過ぎです。肉はたんぱく質や鉄、亜鉛、ビタミンB群などの栄養源でもあります。また、日本人は欧米とは肉類の摂取量など食生活の背景が異なり、日本人の研究では赤肉・加工肉と大腸がんとの関連が一様に認められているわけではありません。

 従って現実的には、肉を完全に避けるのではなく、赤肉や加工肉に偏りすぎず、魚、大豆製品なども含めてバランスのよい食生活を心掛けることが大切です。

 また、肥満を避けること、日常的に体を動かすことも重要です。運動というと激しいスポーツを想像する必要はありません。「歩く時間を増やす」「階段を使う」「座っている時間を減らす」など、日常生活の中で身体活動を増やすことから始めてもよいでしょう。

 では、「便秘」はどうでしょうか。

「便秘になると便の中の有害物質が長時間大腸に触れるため、大腸がんになりやすい」と説明されることがあります。

 一見もっともらしく聞こえますが、通常の便秘そのものが大腸がんの明確な原因であるとは、現在の医学的エビデンスからは言い切れません。

 日本人約6万人を追跡した研究でも、週2~3回程度の排便頻度の人が、毎日排便する人より大腸がん(結腸がん、直腸がん)になりやすいという結果は認められませんでした。ですから、「便秘だから将来大腸がんになる」と必要以上に心配する必要はありません。

 しかし、ここには非常に重要な違いがあります。「便秘が大腸がんを起こす」ことと、「大腸がんによって便秘になる」ことは別です。

 大腸がんによって腸管が狭くなると、それまで便秘ではなかった人が急に便秘になる、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、おなかが張る、といった変化が起こることがあります。

 従って注意すべきなのは、便秘そのものよりも、「これまでと違う便通の変化が新しく出て、それが続いている」場合です。

 また、生活習慣だけを考えていると、大腸がんの重要なリスクを見落とします。大腸がんの家族歴がある人、家族性大腸腺腫症やリンチ症候群など遺伝的に大腸がんリスクが高い人、潰瘍性大腸炎など長期間にわたって大腸に炎症を起こす病気がある人などは、生活習慣とは別に、それぞれのリスクに応じた検査や経過観察が重要になります。

大腸がんを予防するには?

 そして、大腸がんの「予防」を考える際には、私は2つに分けて考えることが大切だと思います。

 1つ目は、がんが発生する確率そのものを下げることです。

「禁煙する」「飲酒を控える」「肥満を避ける」「体を動かす」「赤肉や加工肉に偏らないバランスのよい食生活を送る」といった生活習慣は大切です。

 しかし、どれだけ健康的な生活をしていても、大腸がんになる可能性をゼロにすることはできません。

 そこで2つ目に重要になるのが、「がんになる前、あるいは治りやすい段階で見つける」ことです。

 大腸がんの多くは、正常な粘膜から突然進行がんになるのではなく、「腺腫」と呼ばれる前がん病変などを経て発生します。そのため、大腸内視鏡検査には、がんを見つけるだけではなく、腺腫などを発見して適切に切除することで、将来の大腸がん発症を減らせるという大きな特徴があります。

 ただし、ここで「だから全員が毎年大腸カメラを受ければよい」という結論にはなりません。症状のない一般の人に対する日本の大腸がん検診では、便潜血検査が基本です。対象となる年齢になれば定期的に検診を受け、便潜血検査が陽性になった場合には精密検査を受けることが重要です。

 一方、血便などの症状がある人は検診を待たずに受診する。家族歴や遺伝性疾患、炎症性腸疾患などリスクが高い人は、一般の検診とは別に主治医と検査方法を相談することが大切です。

 つまり大腸がんから身を守るためには、次の複数の対策を組み合わせることが大切です。

・生活習慣を整える
・症状がなくても検診を受ける
・便潜血陽性を放置しない
・血便や新しい便通変化を痔や便秘と決めつけない
・自分自身の家族歴や病歴によるリスクを知る

 特に今回最もお伝えしたいのは、「痔があるから大丈夫」「便秘だから仕方がない」という自己判断で、血便や便通の変化を放置しないでほしいということです。

 大腸がんは、症状だけでは早期発見できないことがあります。だからこそ、症状がないときの検診と、症状が出たときの適切な受診、その両方が重要なのです。

(オトナンサー編集部)

【画像】「えっ…!?」 これが「直腸がん」を疑った方がよい人の“特徴”です

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安江千尋(やすえ・ちひろ)

天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック院長、総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医

がん専門病院で長年にわたり消化器がんの診療・内視鏡治療に従事した後、2024年に「天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック」(大阪市天王寺区)を開院。苦痛の少ない内視鏡検査と患者に寄り添う丁寧な診療で、地域医療に貢献している。特に胃・大腸の早期がん発見と内視鏡切除を専門とするほか、脂肪肝や肝機能障害をはじめとした肝臓疾患の診療にも力を入れている。天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(https://tennoji-naishikyo.com/)。

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