直腸がんは「人工肛門」が必要に? “肉の食べ過ぎ&便秘”に潜む誤解と本当のリスク【専門医解説】
直腸がんと大腸がんは何が違うのでしょうか。消化器病専門医に聞きました。

40歳以降は「大腸がん」にかかりやすいといわれていますが、近年は20代から30代の若年層の患者も増えており、世代を問わず注意が必要です。
ところで、「直腸がん」という言葉をよく耳にしますが、大腸がんと何が違うのでしょうか。直腸がんになった際に人工肛門が必要になる目安や治療法などについて、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(大阪市天王寺区)院長で総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医の安江千尋さんが解説します。
直腸がんと大腸がんは何が違う?
最初に知っていただきたいのは、直腸がんは「大腸がんとは別のがん」ではなく、大腸がんの一種であるということです。
大腸は大きく「結腸」と「直腸」に分けられ、結腸にできるものを「結腸がん」、肛門に近い直腸にできるものを「直腸がん」と呼びます。この2つを合わせた総称が「大腸がん」です。
従って、正確には「直腸がんと大腸がんの違い」というより、「大腸がんの中で、直腸がんと結腸がんでは何が違うのか」という話になります。
同じ大腸がんでも直腸がんが特別に扱われる最大の理由は、がんができる場所の解剖学的な特徴によって、治療がより複雑になるからです。
直腸は骨盤の奥深い狭い空間にあり、その周囲には膀胱(ぼうこう)、前立腺、精嚢(せいのう)、子宮、膣などの臓器があります。さらに、排尿や性機能を調節する神経が走っており、出口には便を我慢するために重要な肛門括約筋があります。
そのため直腸がんの手術では、「がんを取り残さないこと」「局所再発をできるだけ防ぐこと」「可能であれば肛門を残すこと」「排便・排尿・性機能をできるだけ保つこと」を同時に考える必要があります。
これが、結腸がんと比べたときの直腸がん治療の大きな特徴です。
直腸がんは人工肛門が必要に?
患者さんが特に心配されるのが、「直腸がんになると人工肛門になるのか」という点だと思います。
結論から言うと、直腸がんだからといって、必ず人工肛門になるわけではありません。人工肛門が必要かどうかは、単純に「がんが肛門に近いか」だけでは決まりません。がんが肛門括約筋に及んでいるか、がんを残さず安全に切除できるか、患者さんにもともと十分な肛門機能があるかなどを総合して判断します。
がんを十分に取り切りながら肛門を残せる場合には、肛門を温存する手術が選択されます。一方、がんが肛門括約筋まで及んでいるなど、肛門を残すことでがんを十分に取り切れなくなる場合には、肛門を切除して永久的な人工肛門を造る必要があります。
また、肛門を残せる場合でも、腸をつないだ部分の縫合不全などを防ぐため、一時的な人工肛門を造ることがあります。この場合は永久的な人工肛門とは異なり、術後の状態が安定した後に閉鎖することを前提としています。
そして、ここには一般の人にぜひ知っていただきたい重要な点があります。「肛門を残せた=手術前と同じように排便できる」とは限りません。
直腸には、便を一時的にためておく重要な役割があります。そのため直腸を大きく切除すると、肛門が残っていても「便の回数が増える」「急に強い便意が来る」「便やガスを我慢しにくい」「一度で出し切れず短時間に何度もトイレに行く」といった排便障害が起こることがあります。これを「低位前方切除後症候群(LARS)」と呼びます。
つまり、直腸がん治療では「人工肛門を避けることだけ」がゴールではありません。がんを確実に治療できることを最優先にしながら、肛門を残した場合にどの程度の排便機能が期待できるのか、排尿・性機能への影響はどうか、患者さんが治療後にどのような生活を送るのかまで考えて治療法を選択することが重要です。
さらに、進行した直腸がんは手術だけではなく、病変の位置や進行度、再発リスクなどによって、抗がん剤や放射線治療を手術前後に組み合わせる場合があります。また、下部直腸がんでは骨盤の側方にあるリンパ節への転移を考慮した治療が必要になることもあります。
このように直腸がんは、「がんを取り切る根治性」と「肛門・排便・排尿・性機能をできるだけ守る機能温存」をどう両立するかが治療の大きなテーマになるがんだと考えると分かりやすいでしょう。









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