「鬼十則」は過労自殺の証拠たりうるのか 社訓の法的意味を考える
電通の女性社員が過労自殺したとされる問題で、同社が社訓「鬼十則」の削除を検討していると報じられました。「殺されても放すな」などの苛烈な“心構え”を示した文書ですが、こうした社訓はどのような法的意味を持っているのでしょうか。
大手広告代理店電通の女性社員が過労自殺したとされる問題で、同社が社訓「鬼十則」を社員手帳から削除することを検討している、と報じられました。
鬼十則は、4代目社長の吉田秀雄氏が1951年に作ったとされ、「周囲を引きずり回せ」「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などの“心構え”が列記。同社の企業体質を表すものとして、元社員の遺族側は削除を求めています。
オトナンサー編集部では今回、鬼十則のような「社訓」が持つ法的意味についてアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に取材しました。
社訓は「訓示的規定」にとどまるのが原則
Q.電通の長時間労働の元凶とされる「鬼十則」ですが、それ自体の違法性などを問うことはできるのでしょうか。
岩沙さん「会社は、会社が一方的に作成した社訓によって、労働者に義務などを課すことはできません。あくまで訓示的規定にとどまるのが原則です。この点、会社が一方的に作成したものでも、一定の要件を満たせば労働契約の内容となる就業規則とは異なります。鬼十則は社訓であり、労働者に義務などをもたらす効果はありません」
Q.あくまで訓示ということですね。
岩沙さん「就業規則や雇用(労働)契約書上で、一部の労働契約について『鬼十則による』旨の記載があれば、鬼十則が労働契約の内容となる余地はあります。ただし、鬼十則の各規定内容を見ると、こういう姿勢で仕事に取り組むようになどの抽象的記載があるだけなので、鬼十則は労働契約の内容にはならないでしょう」
Q.今回のような過労自殺事案において、鬼十則のような社訓は自殺に紐づけられる証拠として認められますか。
岩沙さん「過労自殺事案について裁判例は、業務(および業務以外)による精神的負担の強さから判断する傾向にあります。社訓は、長時間労働など過酷な労働環境であったことを示す証拠になりえます。ただし、多くの社訓は、抽象的な内容を定める訓示にとどまるものであり、証拠としての価値はそれほどないことが多いでしょう。過労自殺事案においては、具体的に長時間労働をしたことがわかるタイムカード、業務上の精神的負担が原因でうつ病などを発症したことがわかる診断書などの証拠が望ましいです」
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