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育休申請したら降格に…「他人事じゃない」「男性は取りづらい」などの声、降格処分は違法?

育児休暇申請後に、降格を命じられた男性のツイートが話題です。会社の対応に法的問題はないのでしょうか。

育休申請で降格処分、法的問題は?
育休申請で降格処分、法的問題は?

「育児休暇を申請したら、職場で事前の通告なく降格させられた」

 このような男性の投稿が「パタニティーハラスメントでは」とSNS上で議論を呼んでいます。

 パタニティーハラスメント(パタハラ)とは、育休や育児参加制度の利用を希望する男性への嫌がらせです。厚生労働省は、パタハラを「育児参加を希望する男性へのハラスメント」と定義し、ワークライフバランスの実現を阻み、離職や仕事の生産性を低下させる原因としていますが、2017年の男性の育休取得率は5.14%(女性83.2%)にとどまります。

 SNS上では「育休取得が出世に響いた」「男性は取りづらい雰囲気がある」「職場の男性が急に育休を取って正直困った」「もうすぐ夫が育休申請するから、他人事じゃない」など、さまざまな声が上がっています。育休を申請したり、取得したりした人を降格などの処分とすることに法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

パタハラは育児介護休業法違反

Q.まず、パタハラの法的問題について教えてください。

牧野さん「パタハラは、男性社員の育休制度などの利用に関する上司や同僚からの嫌がらせを指します。具体的には、育休取得を拒んだり、育休取得を理由に降格や減給させたりする行為が該当します。

『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児介護休業法)』では、育休申請を受けた際に、企業は特別な事情がない限りは拒むことができないとされており、その権利に男女の差はありません。つまり、男性の育休取得を妨害するパタハラは育児介護休業法違反にあたります」

Q.育休を申請した男性を降格処分にすることについて、どのような法的問題がありますか。

牧野さん「育休の申請や取得を理由とした降格処分には合理的理由がないので、権利の濫用にあたり、違法と言えます。さらに、育児介護休業法10条(不利益取扱いの禁止)に違反するので、地位の保全(降格の撤回)や損害賠償(降格による給与損害及び慰謝料)を求めることができるでしょう。降格処分に伴う減給についても同様です」

Q.育休の申請や取得により、解雇などの不当な扱いを受けた場合、どのような法的手段に訴えることができますか。

牧野さん「育休の申請や取得を理由とした解雇は、『客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない(労働契約法第16条)』解雇だと言えるので権利の濫用にあたり、無効となるでしょう。育休の申請や取得を理由とした降格や減給についても、育児介護休業法10条に違反するので権利の濫用にあたり、無効とされるでしょう。

法的な措置の選択肢としては、通常の民事裁判による他、労働審判制度(裁判の代わりに3回以内の期日で審理を行い迅速な労使関係の紛争解決を実現するもの)や労働委員会が扱う労働争議の調整(あっせん・調停・仲裁)を利用することができます。これらにより、地位の保全(解雇の撤回)や損害賠償(解雇による給与損害)を求めることができます」

Q.育休申請や取得に対して、降格や減給などの処分ではなく、無視や嫌がらせなどをされた場合、何らかの法的手段に訴えることはできますか。

牧野さん「パタハラの精神的被害者は、直接の加害社員に対する不法行為責任(民法709条)、会社に対する使用者責任(民法715条)、あるいは、会社に対する職場の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)や労働契約違反に基づいて、精神的損害の賠償(慰謝料)数万~数十万円を請求することが可能でしょう。ただし、被害者は、精神的損害を証明する必要があるので、嫌がらせ発言の録音や医師の診断書などが必要です」

Q.男性の育休に関するトラブルについて、過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「『育休を3カ月以上取ると翌年度に昇給させない就業規則は無効』として、元男性看護師が、勤務先の病院に慰謝料などを求めたケースがあります。このケースでは、育休の取得を理由とする昇給拒否は育児介護休業法10条に違反するとして、昇給した場合の賃金との差額と、昇格試験を受験させなかった慰謝料として15万円の支払いを命じています(2014年7月18日大阪高裁・岩倉病院事件判決)」

(ライフスタイルチーム)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。