会社から“違法業務”を命令された…実行したら処罰される? 断って解雇されたら? 弁護士が解説
会社員が、会社から違法性が疑われる行為を業務として命じられ、実行してしまった場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。

中古車販売大手・ビッグモーター(東京都港区)が、顧客の車を意図的に傷つけ、自動車保険の保険金を不正に請求したとして、7月25日に記者会見を開き、謝罪しました。会見で同社の兼重宏行社長(当時)は、不正への組織的な関与を否定しましたが、同社を巡っては、他にも店舗前の街路樹を意図的に除草剤で枯らせた疑いが指摘されるなど、さまざまな問題が噴出しています。
ところで、会社員が、会社から違法性が疑われる行為を業務として命じられ、実行してしまった場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。もし業務を断り、不当な解雇や降格などを受けた場合は、どうすればいいのでしょうか。会社側の責任などについて、芝綜合法律事務所の弁護士・牧野和夫さんに聞きました。
善悪の判断ができれば法的責任を免れず
Q.会社から違法性が疑われる業務を命じられたとします。もし実行した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
牧野さん「今回のビッグモーターの事例を基に解説します。もし従業員が『顧客の車を意図的に傷つけ、自動車保険の保険金を不正に請求する』行為をした場合、たとえそれが業務命令であったとしても、行為に関する明確な証拠があれば、当該の従業員本人に器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)や詐欺罪(刑法246条。10年以下の懲役)が成立する可能性があります」
Q.では、違法性が疑われる業務を実行した従業員本人が、「会社から命じられた」と説明しても、法的責任を免れることはできないということでしょうか。
牧野さん「はい、犯罪行為をした従業員が自己で善悪を判断できる以上は、たとえ『上長から命じられた』としても、違法性を免じられる理由にはなりません」
Q.会社が従業員に対して、法律に抵触する可能性のある行為を業務として命じた場合、会社側の法的責任はどうなるのでしょうか。
牧野さん「従業員が『違法性のある業務を上長から命じられた』場合、その上長が自ら行っていなかったとしても、犯罪行為を教唆したとして同犯罪の教唆罪が成立する可能性があります。万が一、会社として組織的に行ったと判断された場合には、会社自体や会社の代表者が処罰される可能性があります」
Q.会社から違法性が疑われる業務を命じられた場合、従業員はどのように対処したらよいのでしょうか。業務を拒否したことで、不当な解雇や降格などを受けた場合はいかがでしょうか。
牧野さん「明らかな犯罪行為であるにもかかわらず、上長から業務として命令を受けた場合、まずは断るべきです。犯罪行為の実行を拒否したことで会社側から解雇や降格の不利益を受けても、そういった処分は法的に無効となるため、弁護士などの専門家に対応を相談すべきでしょう」
Q.従業員が違法な業務を実行したことで、従業員本人だけでなく、上長や会社も法的責任を問われることが多い事例について、教えてください。
牧野さん「複数の企業が連絡を取り合い、本来、各企業がそれぞれ決めるべき商品の価格や生産数量などを共同で取り決める『カルテル』のほか、競売や入札に関して、複数の競争者があらかじめ入札価格や落札者などを話し合って決める『談合』は、独占禁止法違反として刑事罰が科されるケースが多いです。
こうした事件では、カルテルや談合を行った本人だけでなく、その人の直属の部長や課長、さらには会社が有罪とされるケースが多く見られます」
(オトナンサー編集部)
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