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裁判はあっても…子どもの大声が違法な「騒音」とならない理由は?

保育園などで遊ぶ子どもの大きな声を快く思わない人もいますが、「違法な騒音」と判断されることはほぼないようです。なぜでしょうか。

子どもの大きな声、「騒音」とならないのは?
子どもの大きな声、「騒音」とならないのは?

 ネット上には、公園や保育園などで、大きな声を出して遊ぶ子どもを快く思わないコメントがよく見られます。中には「園庭で遊ぶ子どもの声がうるさい」として、保育園に慰謝料を求める裁判を起こした事例もあります。しかし、裁判を起こしたとしても、これまで、その訴えが認められたと聞いたことがありません。

 子どもの遊ぶ声がうるさくても「騒音」とはならない法的根拠は何でしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

損賠請求、認めた判決も

Q.「子どもの遊ぶ声がうるさい」として、公園を管轄する地方自治体や保育園が訴えられた事例があります。訴えが認められたことはあるのでしょうか。

佐藤さん「地方自治体や保育園が訴えられた事例ではありませんが、子どもによる騒音を巡っては2012年3月15日、損害賠償請求などを東京地裁が認めた判決があります。子どもによる騒音を理由に、分譲マンションに居住する夫婦(原告)が真上の部屋に居住する夫婦(被告)を訴えたもので、原告は、被告夫婦の子どもが部屋の中で飛び跳ねたり、走り回ったりする音による被害を主張し、騒音の差し止めや損害賠償を求めました。

裁判所は『原告の居室で聞かれる衝撃音は、子どもの体重に近い重量物を高さ1メートル程度から落下させたときの衝撃音に該当し、生活実感としてかなり大きく聞こえ、相当の頻度でそのような音が聞こえてくることに照らせば、被告がこれに配慮する義務を怠ったことは、原告の受忍限度(我慢すべき程度)を超えるものとして不法行為に当たる』としました。

そして、受忍限度を超えた大きさの騒音を原告の居室に到達させないこと(騒音の差し止め)を認めるとともに、騒音測定費用なども含めた損害賠償金の支払いを命じています」

Q.子どもの騒音を理由に訴えれば、やめさせたいという訴えや損害賠償が認められることが多いのでしょうか。

佐藤さん「先述の事例では、裁判で訴えが認められましたが、それは少数派で、子どもによる騒音を理由に訴えて、裁判で請求が認められる事例は多くありません。

保育園を巡る裁判を紹介します。『園庭で遊んでいる園児の声がうるさい』として、保育園から10メートル程度離れた場所で暮らす住人(原告)が保育園を訴え、防音設備の設置や慰謝料を求めた訴訟では、原告側の敗訴が確定しています(最高裁2017年12月19日決定)。一審、二審の裁判所は騒音の程度や時間帯、施設の公共性なども考慮して、『受忍限度を超える騒音とは認められない』としました。

この他、住宅地の中に設置された児童館に対して、『利用者の自動車騒音などによって周辺環境が悪化する』として、近隣住民が児童館の使用の差し止めを求めた事案(東京地裁1991年6月21日判決)、『子ども文化センターを利用する子どもの発する声や物音がうるさい』として近隣住民が市とセンターを管理する財団法人を訴えた事案(横浜地裁川崎支部2010年5月21日決定)でも、さまざまな事情を考慮して、『受忍限度の範囲内』とし、原告側の訴えを認めませんでした」

Q.子どもの騒音に関する訴えは近年、増加傾向なのでしょうか。

佐藤さん「子どもの声や遊んだり運動したりする音について、『騒音』と受け止める人が現れ始めたのは1990年代以降といわれています。その頃から、子どもの施設を新しく造ることへの不安などが生まれ、反対する住民運動も行われるようになってきたようです。

子どもの声を巡る裁判も、この頃から起こされるようになってきたのでしょう。もっとも、裁判にまで発展する事例はそう多くはないのですが、それでも過去に比べれば、トラブルの増加に伴い、訴訟の数も増えてきているのではないかと感じます」

Q.子どもの遊ぶ声がうるさくても「違法な騒音」と認められにくい法的根拠は何でしょうか。

佐藤さん「先述したように、子どもの声がうるさく感じられても、裁判で『違法な騒音』と認められる事案は多くありません。

裁判所は騒音が違法な権利侵害になるかどうかについて、『侵害行為の態様、侵害の程度、侵害される利益の性質と内容、問題となる施設の所在地の地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況、その間にとられた被害防止に関する措置の有無およびその内容、効果』など、諸般の事情を総合的に考慮して、被害が『一般社会生活上、受忍すべき程度を超えるものかどうか』によって判断しています。

例えば、保育園などの施設側も近隣住民に配慮し、防音壁を設置するなどできる限りの措置をとっていることが多く、その結果、近隣に届く子どもの声はある程度小さくなっていることもあり、『違法な騒音』とまで認められるケースは多くないのでしょう」

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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