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腹立たしい…何度も同じことを聞く部下や後輩、どう対処したらいい?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

同じことを何度も聞いてくる人、どう対処する?
同じことを何度も聞いてくる人、どう対処する?

 一度でも後輩や部下を持って、彼らの人材育成担当になったことがあれば、「何度、同じことを聞いてくるのだろう」と腹立たしく思った経験があるのではないでしょうか。ただ、かく言う自分も若手の頃は(あるいは、もしかすると今でも)、周囲の人に何度も同じことを聞いた記憶があり、「成長途上にある人が何度か同じミスを繰り返したり、一度でそれを改善できなかったりしても、できるだけ許容しなくては」と我慢したかもしれません。それも仕事です。

 許す許さないはともかく、なぜ、同じことを何度も聞いてくる人がいて、それにどう対応すればよいのか、考えてみたいと思います。

「実行できる」と「説明できる」は違う

 筆者もこれまで、小さいながらも会社を経営してきて、管理職の人材育成能力が完璧ではなく、そのために、メンバーが仕事の方法を理解できずに何度も同じことを聞くというシーンを見てきました。

 管理職になるぐらいですから、彼らの能力が低いわけではありません。むしろ、能力は高いのですが、高いからこそ、自分よりも未熟な人がどこでつまずいているか分からず(あるいは、自分が未熟だった頃の経験を忘れて)、説明ができないということが多々ありました。数学の得意な人が数学が苦手な人の家庭教師をしても「何が分からないのか分からない」とうまく教えられないようなものです。最初にこれを疑うべきでしょう。

 というのも「プロは『自分がなぜできるのか』を説明するのが下手」なことが多いからです。プロがプロになるということは、自分のやっていることを無意識で自動的に、すらすらできるということです。意識せずにしていることを他人に説明することは難しいため、プロは説明下手なことが多いのです。

「こうやって、こうなったら、こうなるじゃん?」などと自分では説明しているつもりでも、聞く相手からすると「いや、なぜ、それがそうつながるのか分からない…」となるわけです。プロは自分が無意識に行っている途中のロジックを飛ばして説明するので、聞いている側は理解できません。そして、人は理解できないことは覚えられません。

 単純記憶ほど難しいことはありません。無意味な数字の羅列を覚えるのが難しいのは分かると思います。理解できなくとも、言われた直後は「短期記憶」で実行できるかもしれませんが、意味が分からないものは「長期記憶」になりにくいため、また同じことを聞いてしまうのです。

 つまり、何度も同じことを聞かれるというのは、あなたが仮に正しいことを伝えていたとしても「なぜ、そうしなければならないのか」を理解させることができていないということなのです。

言語化するか、盗ませるか

 もし、教える側の自分に思い当たる節があるなら、対応方法としては自分が無意識にやっていることをきちんと意識化して、「自己認知」を高めることです。自分がどうやって、仕事ができているのかについて、改めて注意を向けて、セルフモニタリングを行いましょう。

 ただ、自分で自分を客観的に分析することは大変難しいことですので、鏡を見て身なりを直すのと同じように、自分のことをきちんと見て、耳の痛いことでも的確にフィードバックしてもらえる他者を得ることも必要です。このようにして自分を知ることで、ようやく、本当に伝えるべきことが分かるのです。

 しかし、どうしても言語化できないこともあります。例えば、筆者の仕事でいえば、クライアントの会社の社員にインタビューしたことから、組織の状態を因果関係で表現していく作業があるのですが、正直に告白すると、やるべきこと、出すべきアウトプットのゴールは説明できても「どうすれば、それができるようになるのか」を説明することは筆者にはできません。

 そうした場合、どうするかですが、これはもう、具体的に後輩や部下の目の前でやってみせて、じっと観察してもらい、盗んでもらうしかありません。一橋大学の野中郁次郎名誉教授が世に広めた、知識創造理論における「暗黙知の共同化」に近いかもしれません。

覚える努力をしないだけなら…

 これまで述べたように、後輩や部下から同じことを何度も聞かれたとしても、まずは性善説に立って、「伝える自分が悪いのでは」と考えるべきだと筆者は思います。しかし、もし、その人が単純に、教えてあげたことに対してメモも取らず、覚える気持ちもなく、それで結局、何度も質問するのであれば話は違ってきます。

 この場合はちゃんと覚えて、セルフマネジメントできるように厳しく指導するのか、1から10まで行動レベルで指示をするのか、完全マニュアル化する覚悟を持つのかをそのメンバーへの期待度によって決めなくてはならないでしょう。ただ、そんな確信犯的なダメな人はそれほどおらず、教える側の問題であることが多いのではないかと筆者は思うのです。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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