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勤務先が“不祥事”起こした…「転職」「残留」、どっちが有利? 採用のプロが解説

勤務先の企業が不祥事を起こした場合、転職を検討してもよいのでしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた、人事コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表が解説します。

不祥事を起こした企業からの転職は可能?
不祥事を起こした企業からの転職は可能?

 勤務先の企業が世間を揺るがすような不祥事を起こした場合、転職を検討する人は多いと思います。ただ、「不祥事のイメージがつきまとい、面接で不利になるのではないか」などと考え、転職活動をすべきか迷う可能性も考えられます。

 勤務先が不祥事を起こした場合、転職を検討してもよいのでしょうか。そのままとどまった場合、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた、人事コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表が解説します。

不祥事の影響は比較的少ない

「そもそも、勤務先の企業が不祥事を起こした際に転職を検討してもよいのか、それとも我慢して残るべきなのか」「不祥事を起こした企業からの転職を成功させることは可能なのか」などについて、一緒に考えてみたいと思います。

 まず、私自身の周囲で起こったことをお話ししたいと思います。私は大学卒業後、新卒でリクルートに入社しましたが、その頃はまだ「リクルート事件」の裁判中で、新聞やテレビなどで毎日のように報道されていました。事件の真っただ中のときほどではありませんでしたが、会社に対する世間のイメージは非常に悪かったです。

 そんな中で学生の採用活動をしていたため、毎日が逆風です。新卒採用で学生の自宅に電話をかけようものなら、親御さんか出てきて「うちの息子に手を出すな!」とガチャ切りされるというようなありさまでした。せっかくこちらが内定を出しても、親の反対で辞退をする人は多かったです。世間を揺るがすようなことをすると、こんなことになるのかと実感しました。

 しかし、これは不祥事を起こした企業の当事者に対する扱いです。あえて社名を挙げることはしませんが、私はこれまで、不祥事を起こした企業からの転職希望者を数多く面接してきました。まず思ったのは、「そんな大変な状況の企業ではじっくり働けないだろうから、転職を考えるのも当然だろう」ということです。これは周囲の人事担当者に聞いても同じ状況でした。

 今もさまざまな企業の人事担当者と接点があり情報交換しますが、彼らは「『あの』企業に所属する人から応募があって…」とちょっと面白げに言ったりするものの、応募者自身に悪意を持つことはほとんどありません。つまり、不祥事を起こした企業に在籍していても、転職活動時は「気にする必要はない」というのが結論です。

どんな「先入観」を持たれるのかを把握しておく

 ただ、もちろん良いことばかりではありません。「そんな大変な状況の中でも頑張っていた『ストレス耐性』」の強い人だ」と良く思ってもらえるケースがあれば、「そんな理不尽な状況の中で声を挙げることもせずに、おとなしく従っていたとは『主体性』のない人だ」と思われるケースもあるでしょう。

 どのような不祥事かによって、「こんな人かもしれない」と思われるパターンは違ってくるとは思いますが、面接時は採用担当者からそのような「先入観」を持たれることだけは覚悟しておくべきでしょう。

 そのため、最初にすべきことは、在籍している企業の不祥事によって、どんな「先入観」を持たれたり、「偏見」を受けたりするのかをきちんと認識することです。自分だけでなく、友人やキャリアアドバイザーなどの第三者の意見を聞くのもよいかもしれません。

誤解を解くために、自分から「そうではない」と伝える

 面接官にどんな「先入観」を持たれる可能性があるのかが分かっていて、その先入観が自分の本当の姿とは異なる場合もあるでしょう。

 その場合は、自己紹介の場面などで、「あの会社でこんな仕事をしていたので、恐らくこう思われるかもしれませんが、私は違います」「実際、私はこのような場面でこんなことを考え、こういう行動をして、このような成果を出していました」などと伝え、相手の誤解を解いてみてはいかがでしょうか。

 面接官は、不祥事を起こした企業に在籍する人に対して、ストレートに話を聞きにくい場合があるため、候補者側から伝えた方が、話が早いと思います。

後始末で自分の価値を高められる

 最後に、転職のタイミングですが、不祥事が起こって早々に転職活動をすることに、それほど嫌な感触を受けることはありません。

 しかし、会社が不祥事を起こした後もしばらくとどまり、大変な目に遭いながらも問題を鎮静化させてから転職活動をしている人は、「責任感、使命感が強い人だ」と高く評価されることがあります。

 どんな会社でも不祥事とまではいかずとも、危機に陥ることはあります。一度、危機に陥ったら逃げていくような社員ばかりで構成されている組織は、脆弱です。一方、危機に瀕した際にとどまってくれる社員は、宝のような存在です。そのため、不祥事が起こって会社の行く末が危ないと思いつつも、後始末の仕事をやり切ると、その人の信頼性や市場価値が上がることがあるのです。

軽い壁はあるが、乗り越えられる壁

 自身が不祥事の首謀者などでない限り、不祥事を起こした会社の社員だったからといって、本質的に大きなデメリットを受けることはそれほど多くありません。からかわれたり、軽口をたたかれたりすることはあるかもしれませんが、決して越えられない壁ではありません。

 私が、リクルート事件の真っ最中にリクルートに在籍していた人たちに話を聞いても、その後のキャリアで回復不可能なほどのダメージを受けたという人は、ほとんどいませんでした。変な言い方ですが、「むしろ成長できたので、良い経験だった」と多くの人が言います。もし不祥事を起こした会社に在籍していても、落ち込まずぜひ頑張ってください。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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