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SNSで育児社員を“子持ち様”とやゆ 「働くな」と批判も なぜ? 人事のプロが指摘する“根本的な問題”

SNS上で子育て中の社員を「子持ち様」とやゆしたり、批判したりする風潮があるのは、なぜなのでしょうか。育児中の社員と子どもがいない社員が互いに対立せずに働くには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。人事のプロが解説します。

子育て中の同僚に不満を持つ原因は?(画像はイメージ)
子育て中の同僚に不満を持つ原因は?(画像はイメージ)

 小さな子どもを育てる親をやゆする、「子持ち様」という言葉がネット上で拡散され、論争に発展しています。例えば、会社で育児中の社員が子どもの体調不良を理由に早退したり、欠勤したりすることがあった場合、同僚がその人の仕事の穴埋めをしなければならず、中にはそのことに不満に感じ、「子持ち様」「優遇されている」と陰で批判する人がいます。

 実際に、SNS上では「職場でまた子持ち様の尻拭い」「仕事に穴をあけるなら働かないで」「育児をしていない人にしわ寄せがきている」など、育児中の社員に対する不満の声が上がる一方、「少子化が止まらない」「子どもが育てにくい社会になっている」と、子持ち様という言葉そのものに対する批判の声もあります。

 そもそも、なぜ子育て中の社員を「子持ち様」とやゆしたり、批判したりする風潮があるのでしょうか。育児中の社員と子どもがいない社員が互いに対立せずに働くには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。企業側の問題点や対策について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた、人事コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表が解説します。

カバーをしている人を評価しているか

 なぜ同僚が育児で仕事を早退したり、休んだりした際に、その人の仕事の穴埋めをすることが、不満につながるのでしょうか。穴埋めをした人の中には、「負荷をかけられた」「迷惑をかけられた」と言う人がいますが、よく考えてみれば不思議な物言いです。

 通常、仕事のパフォーマンスに応じて、評価や報酬が決まります。ある人が育児や病気など、何らかの理由で仕事を早退したり、休まなければならなくなったりした際に、同僚がその人の仕事を代わりに担当したことで特別な負荷がかかったのであれば、その負荷に対応した分だけ評価されて、報酬が支払われるのであれば、問題にはなりません。

 しかし、負荷を背負った側の仕事が正当に評価されていないのであれば、不満につながるのは当然です。ただ、これは育児をしている人のせいではなく、適切な評価をしない会社の責任です。

仕事のプロセスも丁寧に観察する

 評価者である上司が、期初の仕事の目標設定や割り当てだけしか見ておらず、育児をしている人のサポートのようなイレギュラーな仕事について、きちんと観察できていないと、部下が不満を持つことになります。つまり、最初に個人に与えられた役割や目標と、その結果だけを見て最終的な評価をした場合、誰かの穴埋めやサポートをした人は「やり損」になってしまうというわけです。

 また、他者をサポートした側が、「私はこの人があけた穴を埋めましたよ」と自分から声高にアピールすることは、控えめな人が多い日本においては、なかなかできることではありません。そのため、上司が仕事の結果だけでなく、プロセスもきちんと見て、正当に評価をしてあげることが重要です。それができれば、そもそもの不満は生じないはずです。

「組織市民行動」がなされていない

 ただ、日々、自分の仕事でも忙しい「プレイングマネジャー」的な上司が、事細かに部下の行動を完璧に観察するというのは、現実的ではありません。部下の行った善行をつい見逃してしまうこともあるでしょう。

 そんな場合でも問題が起こらないようにするには、職場で働く人たちが、自分たちの組織に対する高いコミットメント(≒貢献欲求)を持つことです。自分の役割外であっても、組織のためにする行動を「組織市民行動」(Organizational Citizenship Behavior)と呼びますが、高い組織コミットメントがあれば、組織市民行動のような細かい利他的行動、組織のためになる行動を苦にすることはないでしょう。

成果主義により役割外行動をしなくなった

 昔の日本企業においては、組織のために気の利いた役割外行動をすることは、「組織市民行動」などと呼ばずとも、当然のことのように行われていました。

 しかし、バブル崩壊後に余裕のなくなった企業が成果主義をなし崩し的にどんどん導入していったことで、人々は自分の役割外の貢献行動をする意識が減っていったように思います。

 成果主義が導入されてから「これは自分の役割ではありません」「目標には入っていません」という言葉をよく聞くようになりました。このような環境で、同僚が子育てで何か仕事に穴をあけた際に、自分からサポートする気持ちが湧かなくても、なかなか責める気にはなりません。

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

コメント

1件のコメント

  1. 自分も子育てしながら仕事をし、現在再雇用で勤務しています。昔と比べ格段に子育ての制度はよくなりました。働き続ける上で、協力したいと思いますが、今回の記事のように、周囲が対応することの評価が少ないと思います。仕事上夕方外部からの問合せが多い職場ですが、その時間に育児時間を取っている人はいないため、残った人が対応せざる得ないですし、急な休みの対応もあります。ただ、気持ちの上で思うのは、子どもがいない頃一生懸命働いていた人には優しくなれます。やはり、人なので、当然の権利とばかりに休む人より、申し訳ないという気持ちが伝わる人の方が優しく慣れます。昔は‥なんて禁句なこの頃、なんの施策もなく働き続けた者としては、イライラしますが、それは、同年代の人と愚痴り合っています。