「送料無料」はもう限界か…中東情勢×物流2026年問題のダブルパンチで「ネット通販」はどうなる?【専門家が解説】
中東情勢の不安定化による輸入コストの高騰で、今後、ネット通販の「送料無料」をやめる事業者が増える可能性はあるのでしょうか。経営コンサルタントに聞きました。

ネット通販の利用時、「送料無料」とうたうサイトで購入する人は多いと思います。しかし、この当たり前だったサービスが見直されるかもしれません。緊迫する中東情勢の影響により、ガソリンや梱包(こんぽう)材の原料となる石油資源が高騰しているからです。
また、荷主による運送会社への荷待ち、荷役などの無償提供が4月から法律で厳しく制限されました。これは「物流の2026年問題」と呼ばれ、現場に大きな影響を与えています。
石油資源の高騰や物流の2026年問題は、ネット通販のサービスにどのような影響を与える可能性があるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
配送コストの高騰が影響
Q.そもそも、ネット通販事業者が行っている「送料無料」というサービスは無理があるものだったのでしょうか。物流の2026年問題も含めて教えてください。
大庭さん「『送料無料』というのは、消費者にお得感を与えて購買意欲を刺激するためのキーワードでしたが、今や当たり前のサービスとして定着しています。
しかし、送料無料というのは、売り主が単純に送料分の損失を負担するビジネスではなく、『送料を上乗せした商品価格を設定する』『他の高価格商品で無料対象の送料を補填(ほてん)する』などの企業内部の戦略に加えて、運送会社に対する価格圧力を行うことで実現させていました。
送料無料を維持する上で、原材料費をはじめとしたコスト高騰のほか、2026年4月からの改正物流効率化法の施行、いわゆる『物流の2026年問題』という2つの環境変化が大きな障壁となっています。物流の2026年問題により、荷主による運送会社への荷待ち、荷役などの無償提供が禁止されることで、必然的に配送コストが高騰するからです。
これらが商品価格の高騰を引き起こし、今後、送料を上乗せしづらくなります。そのため、今後、送料無料というサービスを打ち出しづらくなることが想定されます」
Q.では、中東情勢の悪化が原因で「送料無料」のサービスをやめる企業が増える可能性はありますか。
大庭さん「中東情勢の悪化が長期化した場合、商品の輸入を伴うネット通販ビジネスに対して、『コストの上昇』『物流のキャパシティー低下と不安定化』という面での影響が生じることが想定されます。『コストの上昇』とは、原油高による商品の製造・配送コスト、保険料の上昇などのことであり、商品の仕入れ(輸入)価格の上昇に直結します。
このことに対して、販売価格の上げ幅を最低限に抑えた状態で『送料無料』も維持しようとすると自社の利益がなくなるほか、コストの高騰に見合う値上げをした上で送料を上乗せすると消費者にとって大幅な値上げに映り『商品が売れなくなる』という懸念から、『送料無料』サービスをやめる、もしくは限定的な運用に切り替える企業が増えることが想定されます。
物流のキャパシティー低下と不安定化とは、戦闘地域を通過する航路を避けなければならなくなることで、商品を運送する航空機や船舶の便数が減少し、仕入れ(輸入)商品が手元に届く時期が読みづらくなることです。
前者は商品の仕入れ量減に伴う、売り上げの減少につながり、後者は欠品リスクの拡大につながるため、ネット通販業界におけるビジネスリスクが拡大します」
Q.例えば、もしネット通販事業者が「送料無料」のサービスをやめた後、中東情勢が安定化した場合、そのサービスを再開する可能性はあるのでしょうか。
大庭さん「結論から言うと、『送料無料』のサービスをやめた場合、その後にビジネス環境が変化しても再開しない可能性が高いと考えられます。なぜなら、送料無料サービスの廃止に伴い、一度変えた価格体系を元に戻すリスクと、経営者の心理的な抵抗が影響するからです。
送料無料サービスを廃止することで、商品を販売する事業者は、商品の販売価格を送料が反映されない価格に変更します。ダイレクトに販売価格に上乗せしていた場合は、その部分の引き下げを行い、他の商品の販売価格の中で調整をしていた場合は対象となっていた商品の販売価格を変動させます。
それに対して、送料無料サービスを復活させ、その部分のコストを商品の販売価格に反映させてしまうと、消費者の目に値上げに映り、商品の売れ行きが低下する懸念が生じてしまいます。
また、送料無料サービスの実施は、事業者にとって、利益の低下、商品の販売価格調整の複雑化などのリスクを伴うため、元に戻すことに対して抵抗感が生じる可能性が大きいです」
Q.今後、消費者がネット通販を利用する際、家計への負担をできるだけ減らすにはどうしたらよいのでしょうか。
大庭さん「先述したように、今後のネット通販において、『送料無料サービスが廃止される』『販売価格が上昇する』という消費者にとってのリスクが生じる可能性があります。送料無料サービスが廃止された場合、商品を購入するごとに配送料が上乗せされるため、欲しい商品をその都度購入するのではなく、まとめ買いをして購入頻度を減らすことが家計への負担軽減につながります。
また、送料が上乗せされる分、ネット通販による価格が店舗での販売価格よりも高くなることがあり得るため、店舗の販売価格と比較をした上で安い方を選択することも家計への負担軽減につながります」
送料無料で物流業界は健全化?
Q.「送料無料」がなくなることは、日本の物流業界にとって「健全な進化」と言えるのでしょうか。
大庭さん「私は、送料無料がなくなることが日本の物流業界にとっての『健全な進化』につながるのではないかと考えています。
日本の物流業界にとっての最大の課題が『人手不足』であり、そのことを踏まえて今後の日本の物流業界が持続可能な産業へと進化していくためには『物流業務の効率化』が必要不可欠です。
送料無料をなくすことで、物流コストを商品の販売価格に正しく反映させやすくなります。
そして、物流コストを商品の販売価格に正しく反映させることが、ドライバーをはじめとした物流業務従事者の労働条件の改善、IT化などへの投資に必要な原資の確保につながります。
労働条件改善を実現することが人手不足の解消(緩和)につながり、IT化などへの投資がしやすくなることが『物流業務の効率化』を後押しすると考えます」
(オトナンサー編集部)







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