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2019年度は休職過去最多に…教師の「精神疾患」はなぜ多い?

「#教師のバトン」に学校の先生たちの「悲鳴」が書き込まれています。教師の精神疾患も増えていますが、なぜ多いのでしょうか。

教師の精神疾患、多いのはなぜ?
教師の精神疾患、多いのはなぜ?

 文部科学省が3月26日に始めた「#教師のバトン」プロジェクトが“炎上”状態となりました。プロジェクトの狙いは、教師という仕事の魅力をSNSでアピールしてもらおうというものでしたが、そうした投稿もあったものの、長時間勤務や土日出勤など厳しい勤務実態を訴える書き込みが相次いだためです。精神疾患のために公立学校を休職した教職員が2019年度、過去最多となったことも報道されました。コロナ禍でさらに先生たちの勤務は厳しさを増していると思われます。

 なぜ、先生の精神疾患が多いのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

理不尽な保護者への対応も

Q.なぜ、教師の精神疾患が増えているのでしょうか。

田中さん「最近でこそ、あらゆる業種で働き方改革が浸透してきましたが、教職は特に長時間労働を解消するのが難しいことが精神障害(精神疾患)増加の最大の理由として挙げられます。授業の準備のことを想像すれば分かるように、教師は『時間外労働こそ命』となっている面があります。準備なしにアドリブで授業することはできませんから。それに加えて、心身に不調を来す子どもが増え、昼夜を問わず、子どもと保護者たちの対応に追われていることもあるでしょう。

『#教師のバトン』を見ると『給食費の会計や印刷物作成、提出物督促、先生は何でも屋じゃないのに…』『ゴールデンウイークは部活の引率で休日ゼロ』『朝7時から夕方まで、座ったのが給食時間の5分だけ』『集団下校で途中までは教師が引率する約束だったが、その先で迷子になった子の保護者が“家まで送るのが普通だ!”と学校に怒鳴り込んできた』といった、多忙さや部活動の負担、理不尽な保護者への対応に苦労していることを訴える投稿があります。

一般の精神科の現場からは教職のほか、研修医、看護師、介護士などの医療職、接客業といった職種に精神障害の発症が増えているように感じます。教職を含むこれらの職種に共通するのは業務上、『感情労働』という、気持ちをすり減らすことが多く、しかも『激務』と言ってよいほど業務量が多いことです」

Q.教師の精神疾患(精神障害)について、他の職業の人たちとの違いはありますか。

田中さん「精神科・心療内科の最近の傾向として、先ほど挙げたような職種の人たちがパニック障害、適応障害、うつ病などの精神障害を発症し、受診しています。その中で、教師特有の事情としては、四六時中、集中力が必要とされる上に時間外労働が多くて十分な休息が取れないことから、交感神経が興奮している状態になっていることが挙げられます。

負荷がそれだけ多い分、やり切ったときの達成感や働きがいがとても大きいとは思いますが、休みのない状態が数カ月も続き、そこに突発的な事態(心身不調の児童・生徒の対応、時間外の保護者対応など)が重なってくるとピンチです。それまでギリギリのところで踏ん張って働いているために、想定外の問題に対応する余裕がなく、調子が乱されるのかもしれません」

Q.精神的に厳しい状態になった教師はきちんと診療を受けたり、休みを取ったりできるのでしょうか。

田中さん「教師の場合も医療機関を受診して、『精神障害のため休職する必要がある』との判断が下されると医師にその旨の診断書を書いてもらい、職場のトップ(教師の場合は校長)に提出すれば、職場を休んで治療に専念することが可能です。

教師特有の難しさは精神障害から回復して、職場復帰するときにあります。教師の仕事は年度単位で決まっていますので、復帰の多くは年度が替わるときを目指して行われるのです。そのため、治療がうまくいって、早く回復した場合でも何カ月か復帰の時期を待たされることがあります」

Q.精神的に厳しいという教師の人たちにアドバイスがあればお願いします。

田中さん「まずは『精神的に厳しい』というつらさの自己分析をしてみましょう。仕事の質なのか、仕事の量なのか。職場の人間関係なのか。児童・生徒の対応のことなのか。紙に書き出すなどして、どの問題が解消したら楽になるか、誰かに相談するのがよいか、自分で解決できるかをチェックしていきましょう。もし、自己対処してもつらい状態が続くのなら、それこそ、自己分析した紙を見せながら、同僚、学年主任や教頭などの上司に相談するのがよいと思います。

また、大前提として、平日は少なくとも6時間の睡眠時間を確保したいところです。もし、土日出勤がどうしても必要なのであれば、せめて、土曜日か日曜日のどちらかだけにしましょう」

Q.長時間勤務、土日出勤などをしている教師の周囲の人たちはどのようなサインや兆候があったら、受診をすすめるべきでしょうか。アドバイスも含めてお願いします。

田中さん「先述したような睡眠時間確保のすすめや、土日出勤を控えるよう助言することを大前提として話を進めます。周囲の人たちはやはり、休息を取るように提案することが大事です。例えば、誰でも4つのR(レスト、リラックス、リフレッシュ、レクリエーション)が必要なことを伝えるのがよいかもしれません。

うつ病の一歩手前の『燃え尽き症候群』になりやすい人はいいことも悪いこともすべて、自分で抱え込み、ゆとりがない日々を過ごしがちです。長時間勤務や土日出勤をしたり、突発的な問題を抱えていたりする教師は燃え尽き症候群の予備軍と言ってもよいでしょう。先ほどの4つのRを伝えてみて、それに対して『分かっているけど、時間がない!』などと怒り出すようになったら危険信号です。ゆとりのなさに気付いたら、専門家にぜひ相談してください」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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