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迷子の子への声掛けためらう…「誘拐犯」に間違われても法的に救われる?

迷子の子どもに声を掛けて、「誘拐犯」に間違われるリスクから、見て見ぬふりをする大人がいるようです。誘拐犯と誤って通報されたとき、法的に救いを求めることはできるのでしょうか。

迷子に声掛け、誤解されたら…?
迷子に声掛け、誤解されたら…?

 先日、小学4年の児童が迷子になっていた4歳の子どもを交番に連れていき、「(見て見ぬふりをせず)大人がきちんと声掛けをしてくれれば」と警察から感謝状をもらった際にコメントしたことが話題になりましたが、ネット上では「声掛けをして誘拐犯と間違えられたら面倒」「リスクを避けるためにも声掛けはしない」などのコメントが多く見られます。

 最近の子どもを取り巻く犯罪事情からすると、こうしたコメントも理解できないわけではありませんが、「人として、あまりにも冷たい仕打ちなのではないか」とも思います。迷子の子どもを誘拐しようとしていると誤って通報されたとき、法的に救いを求めることはできるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「単純遺棄罪」の考え方

Q.目の前にいる子どもが迷子だと思ったとき、無関係の大人もその子を保護する法的義務があるのでしょうか。迷子を見て見ぬふりをした場合、「保護責任を放棄した」などとして罪に問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「目の前の子どもが迷子だと思っても、その子どもと無関係の大人には積極的に保護する法的義務はありません。そのため、迷子を見て見ぬふりをしただけで何らかの罪に問われたり、民事上の損害賠償責任を負ったりすることはありません。

刑法には『単純遺棄罪』が定められており、保護責任者ではなくても『老年、幼年、身体障害または疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した』場合、犯罪が成立し得ます(刑法217条)。迷子の子どもは『幼年のために扶助を必要とする者』に該当する可能性がありますが、ここでいう『遺棄』とは場所的に移転させることであり、危険な場所に放置したまま立ち去る行為は含まれないと考えられています。迷子をその場所に放置したまま置き去りにしたとしても、単純遺棄罪に問われることはないでしょう。

なお、『保護責任者遺棄罪』(刑法218条)の『遺棄』には場所的に移転させることだけでなく、危険な場所に放置して立ち去る行為も含まれると考えられています。保護責任者遺棄罪は『保護責任のある者(親など)』による遺棄や不保護がある場合に成立しますが、一般的に迷子の子どもと無関係の大人には保護責任が認められないため、保護責任者遺棄罪が成立することもないと考えられます。

このように、迷子の子どもを放置しても法的責任を問われることはありませんが、社会の一員として、目の前の困っている子どもを助けることは大切だと思います」

Q.一方で、迷子の子どもに声掛けをして誘拐犯などと間違われ、警察から疑いの目で事情聴取を受ける可能性はあるのでしょうか。その場合、実際にそうしたケースは増えているのでしょうか。

佐藤さん「迷子の子どもを保護したことにより、警察から、保護の経緯、氏名や住所などの個人情報を詳しく聞かれることはあります。その際の警察官の態度などから、『誘拐犯と疑われているのではないか』と不安を感じる人もいるでしょう。

しかし、保護の経緯をきちんと説明すれば、通常、誘拐犯と間違われて逮捕されるといった事態にはなりません。長時間、子どもを連れ回したりするなどの事情があれば別ですが、すぐに交番に連れて行けば、保護したことにより、逮捕されるといった大きな不利益を受けることはないと考えられます。

ただ、昔に比べれば、保護した者に対する警察官の態度も厳しくなっており、『疑われているのでは?』と感じるケースが増えているように感じます。社会が『見ず知らずの人による声掛け』を警戒し、恐れるようになったことが背景にあるのではないでしょうか」

Q.迷子の子どもに声掛けをしたり、一緒に交番に連れて行こうとしたりして、周囲の人に誘拐犯だとして誤って通報されたとき、法的に救いを求めることは可能でしょうか。冤罪(えんざい)になる可能性はないのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、誤って通報されたとしても警察官にきちんと保護の経緯を話せば、その場で理解してもらえる可能性が高いです。万一、警察官に話を聴いてもらえないなど不安な状況になってしまった場合、任意で事情を聴かれている段階なら、自分の意思で退去できます。いったん取り調べを終わらせてもらい、再び警察から呼び出されるなどの事情があれば、できるだけ早く弁護士に依頼するとよいでしょう。

また、冤罪になる可能性はほとんどないと思います。冤罪とは『罪がないのに起訴され、有罪となり、罰せられること』です。起訴に至るまでの過程で誤解が解けるでしょうし、誘拐犯として起訴できるだけの証拠が集まるとは考えにくいです」

Q.もし、迷子の子どもに声掛けをするなどの行為から誘拐犯と間違われて通報されたとき、どのようにして間違いを証明すればよいでしょうか。

佐藤さん「『何時に、どこで』迷子の子どもを発見し、その後、『保護した子どもと、どこを、どのように行動した』のか詳細に事情を説明することが大切です。保護された子どもも落ち着いてくれば、事情を説明してくれるでしょう。保護の様子を見ていた人が他にいれば、その人が事情を話してくれる可能性もあります」

Q.迷子の子どもを見つけた場合、どのようにすれば、周囲の人から誤解されず、交番などに連れて行くことができるでしょうか。

佐藤さん「迷子の子どもを見つけた場合、見つけた時点で『110番』をして、どこの交番に連れて行けばよいのかなどを相談すれば、誤解される可能性はなくなると思います。周りに人がいるときは複数人で一緒に交番に連れて行くのも一つの方法でしょう。

また、子どものためを思っていたとしても、長時間、子どもを連れ回したり、自宅に招いて一緒に過ごしたりすると『未成年者誘拐』(刑法224条)の容疑で逮捕される可能性もあります。車で通り掛かって迷子を乗せる場合、少し離れた交番へ直接向かうのであれば問題ないでしょうが、迷子になった子が望む場所などに車でいろいろ連れて行くと、問題になると思います。こうした誤解を招く行為を避けることは大切です。

子どもは迷子になると、大人が思っている以上に大きな不安でいっぱいになるものです。見知らぬ人からの声掛けに敏感な世の中なので慎重になる気持ちも分かりますが、助け合いの精神を忘れず、適切に行動できるとよいのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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