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「容姿」ネタの芸人、一般人が街やネットで中傷したら…法的責任は問われる?

「容姿」を笑いのネタにしているお笑い芸人に一般人が、その芸人がプライベートで歩いているときや、ネットのコメントで容姿をおとしめた場合、罪に問われることはあるのでしょうか。

ほんこんさん
ほんこんさん

 お笑い芸人の中には、自らの「容姿」をけなされることを笑いのネタとしている人がいます。テレビでそれが問題になることはほとんどありませんが、一般人が一般人の容姿を公然とけなしたら、罪に問われる可能性があると思います。

 では、容姿を笑いのネタにしているお笑い芸人がプライベートで歩いているとき、一般人から容姿についておとしめるようなことを言われた場合、その人を罪に問うことはできるのでしょうか。また、ネット上で容姿をおとしめるようなコメントを書いた人は、罪に問われ得るのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「テレビでは問題ないから…」は通用しない

Q.一般人が一般人に対して、容姿をおとしめることを公然と発言した場合、どのような罪に問われる可能性がありますか。

佐藤さん「侮辱罪に問われる可能性があります(刑法231条)。侮辱罪は、公然と人を侮辱した場合に成立します。

『公然と』とは、不特定または多数の人が知り得る状態にあるということです。例えば、密室で2人きりのときに容姿をおとしめるような発言をした場合はこれに該当せず、侮辱罪は成立しません。ただし、特定または少数の人がいるところで侮辱した場合でも、特定または少数の人から他の人へ広まる可能性があれば、公然性が認められる可能性があります。

『侮辱』には『バカ』『クズ』などの誹謗(ひぼう)中傷、『ハゲ』『ブス』といった容姿をばかにする発言、『死ね』『消えろ』のような過激な発言等が含まれます。具体的な事実を示すことなく、こうした抽象的な発言で相手を辱め、名誉などを傷つけた場合に、侮辱罪に問われる可能性があります。侮辱罪の刑は拘留(1日以上30日未満の間、刑事施設に拘置する刑)、または科料(1000円以上1万円未満を支払わせる刑)です。

ただし、侮辱罪のみで起訴され、刑に処されるケースは極めて少ないです。公然と容姿をおとしめるような発言をしたからといって、常に侮辱罪に問われるわけではなく、被害者側から告訴(捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の訴追を求めること)があり、刑罰を科すに値する一定の悪質性のある行為のみが問題になります。侮辱罪は『親告罪』といい、被害者からの告訴がないと立件できない罪です。

例えば、大声で何度も『ハゲ』『ブス』といった言葉を発しながら罵倒し続け、周りの制止にも従わないようなケースであれば、悪質性が認められ、被害者の告訴によって、侮辱罪に問われる可能性があるでしょう」

Q.容姿をけなされることを笑いのネタにしているお笑い芸人がプライベートで歩いているとき、一般人から容姿についておとしめるようなことを言われた場合、罪を問うことはできるのでしょうか。

佐藤さん「容姿をけなされることを笑いのネタにしているお笑い芸人が相手であっても、プライベートな場面で公然と容姿を侮辱すれば、侮辱罪が成立する可能性があります。ただし、先述した通り、実際に罪に問われるのはよほど悪質なケースに限られるでしょう。また、侮辱罪は親告罪なので、容姿をおとしめるようなことを言われたお笑い芸人側が告訴をしない限り、発言した人が起訴されることはありません。

相手がお笑い芸人にせよ一般人にせよ、容姿をおとしめる発言によって刑事責任を問われる可能性は低いですが、民事上、損害賠償責任を問われることも考えられます。冗談のつもりであっても言われた側は傷つくものなので、常に思いやりのある発言を心掛けることが大切でしょう」

Q.容姿をけなされることを笑いのネタにしているお笑い芸人に対して、ネット上で容姿をけなすコメントを書いた場合、罪に問われるのでしょうか。

佐藤さん「ネット上で容姿をけなすコメントを書いた場合も、侮辱罪に問われる可能性があります。先述したように、不特定または多数の人が知り得る状態であれば、『公然と』に当たります。そのため、不特定多数の人が閲覧できるネット上に書き込みをすれば、公然性が認められます。

また、特定の人しか閲覧できないSNSに書き込んだ場合も、それが拡散される可能性があれば、公然性が認められ、侮辱罪に問われる可能性があります。ネットへの書き込みの場合も、罪に問われるのは一定の悪質なケースに限られます」

Q.侮辱罪に問われた一般人が「テレビでは容姿をけなされても問題ないのに、自分がすれば罪に問われるのはおかしい」と訴えた場合、法的にはどのように判断されるのでしょうか。

佐藤さん「『テレビでは許されているのだから、自分も許されるはず』という言い分は認められないでしょう。テレビのショーとして容姿をけなすことは、お笑い芸人本人が容認していることであり、悪質な行為とは考えられず、違法性が認められません。一方で、一般人が見ず知らずのお笑い芸人の容姿を公然とけなすことは、お笑い芸人本人が容認しているとは考えられず、違法性が認められる可能性があります。

先述したように、実際に罪に問われるケースというのは、お笑い芸人側からの告訴があり、検察官も起訴すべきと判断した事案ですから、よほど悪質なケースだと考えられ、刑に処せられることもあり得るでしょう」

Q.テレビの中では、容姿をけなされても罪に問われないのはなぜですか。法的な免責事項があるのでしょうか。

佐藤さん「法的な免責事項があるというわけではありません。テレビの中では、お笑い芸人が容姿をけなされることを容認しており、本人が容認していれば違法性が認められないからです。

テレビでのやりとりは容姿をけなすことも含め、一つのショーとして演じられている面があります。お笑い芸人であれ有名人であれ、一人の感情を持つ人間であり、ショーから離れた場面でけなしてよいはずがありません。相手の気持ちを想像し、思いやりある発言をすることが大切だと思います」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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