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婦人服大セールも 「国際女性デー」は中国で「女王節」、どんな日?

3月8日は「国際女性デー」ですが、中国では「女王節」とも呼ばれ、他の国とは違う盛り上がりを見せるようです。どのような日なのでしょうか。

3月8日のセールでにぎわう上海の婦人服店(2013年3月、AFP=時事)
3月8日のセールでにぎわう上海の婦人服店(2013年3月、AFP=時事)

 3月8日は「国際女性デー」という、女性の参政権獲得や権利平等を求める運動に起源を持つ記念日ですが、中国では「女王節」とも呼ばれ、他の国とは違う盛り上がりを見せる日のようです。どのような日で、何が行われるのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんに聞きました。

女性向け食事会から大々的セールの日に

Q.国際女性デーは中国では「女王節」とも呼ばれるそうですが、どのような日なのでしょうか。

青樹さん「3月8日、中国では、女性だけが午後から半日、仕事が休みになります。半日の休みは国の制度として決まっていて、いろいろなところで女性向けのパーティーが開かれるなどします。私が中国国際放送局で仕事していた頃は国が主催する女性だけの食事会があり、私も参加しました。会社によっては、女性社員にお菓子や化粧品、映画のチケットをプレゼントするところもあります。

近年では、プレゼントを贈る習慣が会社主体から個人間に広がってきて、3月8日に合わせて、妻に贈り物をする、母親に贈り物をする、恋人に贈り物をする…そういう日にもなりつつあります。贈る物は花が多く、最近は青いバラが流行。ほかにはユリやワスレナグサ、コチョウランも人気で、『ユリは“純潔”』『コチョウランは“純粋な愛”』などと花言葉に合わせて選ぶそうです。

さらに、最近は女性向け商品を中心にした大々的なセールが行われています。デパートやスーパーがレディースものの一大セールを行い、2015年からはネット通販大手のアリババが『女王祭』と称して、本格的にネットセールを始めました。アリババは毎年11月11日の『独身の日』に『ダブルイレブン(11と11)』として大規模なネットセールを展開していますが、3月8日も一大販促イベントの日として育てようとしているのです。

ダブルイレブンは主に独身男性向けのセールとして始まって、今はあらゆる人を対象にした巨大セールになりましたが、『女王祭』は独身女性だけでなく、最初からあらゆる女性をターゲットにしたイベントとして始まりました。女性が自分のために買い物をすることもありますが、先述したように、男性が女性にプレゼントするために買うこともあるので、とても大きなマーケットになっています。

『3月8日はエプロンも雑巾も投げ捨てて、クレジットカードを使いまくってください』などというコピーも出現しました」

Q.なぜ、「女王」節なのでしょうか。

青樹さん「日本で昔、『国際婦人デー』と訳していたように、中国でも3月8日を『3・8婦女節』と呼んでいました。国際婦人デーの直訳という感じですね。しかし、若者たちに『婦女』『婦人』と言ってもピンと来ません。若者たちから、『3・8女王節』、あるいは『3・8女神節』という呼び方が出てきたようです。今では『女王節』『女神節』が主流になっています。

中国では、『女王』は『君主』という意味よりも『強くてたくましく、決断力があって、果敢で、聡明(そうめい)で、先見の明もある』、そういう女性のいいところを意味する言葉でもあります」

Q.国連広報センターの資料によると、国際女性デーは1909年に米国で行われた「全米女性の日」にルーツがあり、女性の参政権や権利平等を求める運動が起源とされています。1975年に国連が「国勢女性デー(国際女性の日)」と定め、近年は政治色のないイベントを行う国も増えてきたようですが、なぜ、中国では女性に贈り物をしたり、食事会でもてなしたりする日になったのでしょうか。

青樹さん「これは中国の近現代史と関係があります。国際女性デーに相当する行事は中国では1924年3月、広東省の省都・広州市で初めて行われました。その頃は中華民国の時代です。中国は元々は儒教の国です。中華民国の時代までは『女性は男性に従うものだ』という倫理道徳が根強くありました。

1949年、中華人民共和国が建国されると、昔の封建制度を打破することが重視されます。社会主義国の政治、経済、社会にとって、女性は重要で欠かせない存在です。女性が働いてくれないと国が成り立たないという事情もあります。

『半辺天』という言葉が中国にあります。『天の半分は女性が支えている』という考え方です。私も中国に行った最初の頃から、いろいろなところでこの言葉を聞かされました。『新しい中国建設にはすべての人の力が必要。女性の力も絶対に必要だ』として女性活用を推し進めてきたのです。そのため、中国では女性も外で働くのが当たり前でした。

日本と違い、『専業主婦』は限られた特殊な地位です。改革開放になって、お金持ちが出現すると専業主婦という存在が出てきたのです。日本と違って、女性管理職も多いですし、重要ポストにも女性が多くいます。職場で男女差別はなく、もちろん、女性活用の法律も制度も設備もきちんと確保されています。男女で定年に違いがあったり、農村部で差別が根強く残っていたりはしますが、基本的には、社会を支える存在として女性が大切だという認識があるのです。

その一環で、3月8日の『女王節』があります。働く女性に対して『おつかれさまです』とねぎらう日、働く女性への『おつかれさま会』の日なのです。余談になりますが、中国はそういう社会ですから、森喜朗氏の発言に端を発した最近の日本の女性問題も、中国人は『1世紀以上昔の話では?』と驚いています」

Q.コロナ禍ということで、今年は春節の帰省自粛呼び掛けもありました。女王節に新型コロナウイルスの流行は影響していないのでしょうか。

青樹さん「実は新型コロナの影響で、逆に女王節の売り上げは伸びています。昨年、2020年3月は既に新型コロナが流行していた時期ですが、『巣ごもり需要』が女王節の活況を後押ししました。アリババの売り上げは大幅に伸び、2015年の本格的セール開始後、最大の売り上げを達成したのが2020年3月8日を中心としたセールでした。2019年比で売り上げが倍増した商品が2万点といわれており、ネット通販ではダブルイレブンに次ぐ大きなイベントになりました。

他の企業も含め、特に売れたのが化粧品で靴もよく売れたそうです。『靴は対面でないと売れない』が常識とされていましたが、中国の企業は対面で売れないなら、ライブコマース(ネット上でライブ配信しながら商品を販売)で売ろうと従業員一人一人に教育して販売したら、実店舗より売り上げが伸びたのです。

女王節のネット通販を契機に企業もいろいろな売り方を考えています。『コロナだからダメだ』などと考えず、実店舗が営業できないなら、どういう方策で売るかを考えるのが中国人です。商魂がたくましいのです。『3・8女王節』にしても、元々は社会主義的な、お堅い催しなのに、女神の日だ、女王の日だとビジネスに結び付けるのは、中国ならではかもしれません。今年はさらなる盛り上がりが予想され、将来的にはもっと伸びていくのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」など。近著に「中国人の『財布の中身』」(詩想社新書)がある。

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