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顔写真や名前をさらす…「ネットリンチ」をした場合の法的責任は? 弁護士が解説

「ネットリンチ」をした場合の法的責任について、弁護士に聞きました。

「ネットリンチ」をした場合の法的責任は?
「ネットリンチ」をした場合の法的責任は?

「備え付けのしょうゆボトルや湯飲みをなめる」など、飲食店の客による迷惑行為を撮影した動画が相次いでネット上に拡散し、問題となっています。そんな中、SNS上では、加害者の顔写真や名前などの個人情報をさらす行為が横行しているようです。

 主に不祥事を起こした個人や団体に対する、ネット上でのこうした攻撃的な行為は、「ネットリンチ」と呼ばれていますが、この場合、どのような法的責任を問われるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

50万円以下の罰金などの可能性

Q.主に不祥事を起こした人の個人情報をネット上でさらすなど、いわゆる「ネットリンチ」に該当するような行為をした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

牧野さん「ネット上で個人情報をさらす際に、公然とその人の名誉を毀損(きそん)する内容(社会的地位を低下させる内容)のコメントを書き込んだ場合は名誉毀損罪(3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)、その人の人格を蔑視するコメントを書き込んだ場合、侮辱罪(1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)がそれぞれ成立する可能性があります。

いずれのケースでも、個人情報をさらされた個人に精神的損害(慰謝料)が発生した場合、民法709条の不法行為に該当し、加害者側には発生した損害を賠償する責任が生じる可能性があります。

また、ネットリンチにより個人事業主や勤務先が業務妨害を受けた場合、個人や勤務先に対する偽計業務妨害罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)に該当する可能性があります。営業妨害で損害が発生した場合は、民法709条の不法行為に該当し、加害者側には発生した損害を賠償する民事責任が生じる可能性があります。

このほか、『言う通りにしないと、ネット上に個人情報をさらすぞ』などと脅した場合は、脅迫罪(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金)が成立する可能性があります」

Q.ネットリンチに関する投稿を拡散したり、同意したりした場合、同様に法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

牧野さん「ネットリンチに関する投稿を拡散したり、同意したりする行為が、ほう助罪などの犯罪に該当する可能性は低いでしょう」

Q.ネットリンチに該当する行為をした人の中には、個人情報が特定され、書類送検されるケースもあったようです。ネットリンチに該当する行為をした場合、どのような方法で特定されることが多いのでしょうか。

牧野さん「民事で発信者を特定する方法と同じだと思いますが、一般的に捜査機関は、IPアドレス(PCやスマホなどの機器に割り当てられた番号)を通じて発信者を特定します」

Q.ネットリンチの被害を受けた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。警察に相談する必要があるのでしょうか。

牧野さん「犯罪の可能性が高い証拠があれば、警察が対応してくれると思いますが、不法行為による損害賠償請求は、民事事件として弁護士に相談することになります」

Q.「ネットリンチ」に関する過去の事例について、教えてください。

牧野さん「2019年10月に発覚した神戸市の教員間のいじめ・暴行事件では、加害者とされる教員たちの実名だけでなく、彼らの住所や家族の名前などがネットでさらされました。たとえ加害者であっても、個人情報を安易にネット上に書き込んでしまうと民事・刑事の法的責任が発生する可能性があるので、注意が必要です」

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

コメント

1件のコメント

  1. 「ネットリンチ」は大人に限った事では無いと思う。スマホの利用年齢が下がっている事を考慮すれば中学生・高校生でも知らぬうちに加害者になりえる事を教育の現場で徹底すべきと思う。