懲役と禁錮、「拘禁刑」に一本化 刑務作業の義務はどうなる? 弁護士に聞く
「懲役」と「禁錮」を廃止して「拘禁刑」という刑罰に一本化する改正刑法が成立しました。懲役受刑者の義務だった「刑務作業」はどうなるのでしょうか。

裁判のニュースで「懲役〇年」「禁錮〇年」と報道されることがありますが、この「懲役」と「禁錮」を廃止して「拘禁刑」という刑罰に一本化する改正刑法が6月13日に成立しました。なぜ一本化されるのでしょうか。懲役受刑者の義務だった「刑務作業」はどうなるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
刑務作業は存続、状況に応じて
Q.まず、「懲役」と「禁錮」の違いについて、改めて教えてください。
牧野さん「懲役は、犯罪者を受刑施設に拘禁して、強制的な労務作業(刑務作業)を行わせる刑罰です。禁固は、強制的な労務作業がなく、身柄を拘束するのみの刑罰です。強制的な労務作業の有無が、両者の最大の違いになります」
Q.なぜ、「拘禁刑」に一本化するのでしょうか。
牧野さん「『拘禁刑』は、懲役や禁錮と同様、受刑者を刑事施設に収容する刑罰ですが、その上で、『改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる』とされています。『作業』は、これまでの労務作業と同じですが、『指導』を明記したことがポイントです。
刑務所からの出所後に再び罪を犯してしまう『再犯者』が、後を絶ちません。犯罪白書によると、刑法犯の中で再犯者が占める割合は増加傾向にあり、2020年には49.1%を占めました。そうした現状を是正するため、拘禁刑によって、刑務所内での再犯予防教育(指導)に重点を置く目的があります。
例えば、学校を中退して学力が不足し、社会生活に支障がある受刑者の場合、学力向上のための指導を中心に行う方が、出所後の再犯防止に役立つ可能性があります。しかし、現在の懲役刑は労務作業が義務ですので、学力向上のための指導が十分にできない面もあります。指導が必要な者には指導、というように、柔軟な対応ができるようにしようというのが、拘禁刑への一本化の目的です」
Q.100年以上変わらなかった刑法の刑罰が変わる意味とは。
牧野さん「受刑者に苦役を与えることを目的とした、これまでの『懲罰主義』から、再犯予防の更生教育を目的とした『教育刑主義』へと大きく転換するという意味があります。特に懲役刑の労務作業は、もともと、過去の犯罪に対する報い、懲らしめという性格がありました。近年は、社会復帰への訓練的な意味合いも増してきてはいるようですが、やはり、『懲罰』であることに変わりはありません。
その懲罰主義から、先ほど述べたように、教育刑主義、つまり教育、指導を主としたものへと変わります」
Q.懲役受刑者の義務だった「刑務作業(労務作業)」はどうなるのでしょうか。義務でなくなるとすれば、これまでの「懲役」と「禁錮」の関係(懲役の方が重い刑罰)から考えると、刑が軽くなるようにも思えるのですが、問題ないのでしょうか。
牧野さん「労務作業が廃止されるのではなく、受刑者の処遇(労務作業や更生教育など)がその状況に応じて実施されることになります。そもそも、身柄を拘束され、自由を剥奪されるという点では、懲役も禁錮も拘禁刑も変わりはなく、その意味では、刑が軽くなったとはいえないでしょう」
拘禁刑に一本化する改正刑法は、公布から3年以内に施行されます。
(オトナンサー編集部)
コメント