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スーパーの刺し身で「アニサキス」食中毒 賠償請求できる? 弁護士の見解

スーパーなどで飼った刺し身を食べたことがきっかけで、アニサキスによる食中毒を発症した場合、販売元の店舗に賠償を求めることは可能なのでしょうか。弁護士に聞きました。

刺し身でアニサキスによる食中毒になった場合、店に賠償請求できる?
刺し身でアニサキスによる食中毒になった場合、店に賠償請求できる?

 例年、気温や湿度が高くなる5月から9月は、「カンピロバクター」や「腸管出血性大腸菌(O157など)」といった細菌性の食中毒の発生件数が増える傾向にありますが、「アニサキス」などの寄生虫による食中毒は年間を通じて発生するため、細菌性の食中毒と同様、注意が必要です。例えば、生の魚介類にはアニサキスの幼虫が寄生しているため、スーパーなどで買った刺し身を食べた人の中には、アニサキスによる食中毒を発症するケースもあります。

 ネット上では、「魚介類に付着したアニサキスを完璧に取り除くのは無理」「生で食べる以上、食中毒のリスクは避けられない」といった声もありますが、スーパーなどで買った刺し身を食べたことが原因でアニサキスによる食中毒を発症した場合、販売元の店舗に賠償を求めることは可能なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

加工時点で損害賠償責任を負う

Q.スーパーで買った刺し身を食べたことが原因で、アニサキスによる食中毒を発症した場合、購入者は販売元の店舗に賠償を請求することは可能なのでしょうか。

佐藤さん「刺し身を加工・販売したスーパーに対して、損害賠償請求することは可能です。刺し身は、『加工』された物であるため、製造物責任法の定める『製造物』に当たると考えられます。製造業者は、製造物の『欠陥』により、他人の生命・身体または財産を侵害した場合、損害賠償責任を負うと定められています(製造物責任法3条)。アニサキスが寄生した刺し身には『欠陥』があると言えるため、食中毒を発症した人に対して、損害賠償責任を負うことになるでしょう。

刺し身は生ものであるため、アニサキスによる食中毒を完全に防ぐのは難しく、スーパーの責任を常に認めるのは酷ではないかとも思えますが、製造物責任法は、製造業者の『過失』があるかどうかにかかわらず、『欠陥』さえあれば責任を負う仕組みになっています。このほか、スーパーの過失を立証し、民法の不法行為責任を追及することも可能です」

Q.では、店で販売した刺し身がきっかけでアニサキスによる食中毒が発生した場合、販売元の店舗はどのような法的責任を問われるのでしょうか。

佐藤さん「店で販売した刺し身が原因でアニサキスによる食中毒になった場合、先述のように、店は客から損害賠償責任を追及され、治療費や入院・通院にかかった交通費、休業損害(仕事を休んだために得られなかった収入)、慰謝料などの損害賠償金を支払わなければならなくなる可能性があります。食中毒の程度や、食中毒になったことによって将来的に影響が残るかどうかなど、事情によっては、数百万円の高額の賠償責任を負うこともあるため、こうした賠償責任に備える保険も、事業者向けに存在します。

また、食中毒の原因となった刺し身を提供したとして、店が1日から3日程度の営業停止処分を受けることがあります」

Q.すし店などの飲食店が提供した、生の魚介類を使った料理がきっかけで客がアニサキスによる食中毒を発症した場合はどうでしょうか。飲食店側は損害賠償を請求された場合、応じなければならないのでしょうか。

佐藤さん「刺し身の販売店舗のケースと同様、提供した料理がきっかけでアニサキスによる食中毒を発症させてしまった場合、店は客から損害賠償責任を追及され、慰謝料などを支払わなければならなくなる可能性があります」

Q.店舗で売られている刺し身や飲食店で提供された料理を食べた後、アニサキスによる食中毒を発症した場合、どのように対処したらよいのでしょうか。また、食中毒を発症後、すぐに店に申し出なかった場合、賠償を請求できない可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「食中毒を発症した場合、まずは病院にかかり、命や健康を守ることが大切だと思います。確かに、損害賠償請求権にも時効はありますが、発症後、すぐに行使しなければ消滅してしまうようなものではありません。特に、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権は、2017年の民法改正時に消滅時効の期間が延長され、被害者の権利が拡大されました。

どの条文に基づき、損害賠償請求するかによって時効の期間は変わりますが、例えば、不法行為責任や製造物責任を追及する場合、損害と加害者を知ったときから5年間は時効によって消滅しません(民法724条の2、製造物責任法5条)」

Q.店が販売した食品が原因でアニサキスによる食中毒が発生した事例、判例について教えてください。

佐藤さん「2015年3月、食品製造・食料品販売業を営む店が提供したサバによって、客がアニサキスによる食中毒を発症し、その後、アニサキスアレルギーを引き起こしたケースがあります。被害者は約800万円の賠償金の支払いを求め提訴しましたが、店との間で和解が成立し、和解金220万円が支払われました。

アニサキスアレルギーを発症すると、アレルギー症状を回避するため、だしを含む魚介類の摂取を避けなければならなくなり、被害者の今後の食生活に大きな影響が及ぶため、高額の慰謝料が認められる傾向があります」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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