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テスト90点でも叱られ…「ダメ出し母さん」をやめて、子どもの“できる”を評価しよう

わが子に対し、できていないことを掘り返したり、否定したりする親。「よかれと思って」行うその子育てはやがて、“連鎖”していく可能性があると筆者は指摘します。

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

 ある母親のお話です。子どもがおもちゃを少しは片付けているのに、まだ片付いていないおもちゃを指して、ネチネチと叱る。小学校に入ってからは、テストの点数のことでたびたび叱る。すると、子どもはこんな歌を作りました。

0点取ったら怒鳴られて
30点取っても怒鳴られて
60点取ったら 「平均点以下だ」と怒られて
90点取ったら 「なんであと10点 取れなかったんだ」と叱られて
やっと100点取れたら 「これを維持しなさい」とくぎを刺された!
ああ、何をやっても 私の母さんはダメ出し母さん
ああ、私はゴールの見えないマラソン選手

 その子が小学3年のとき、図画工作の時間に、黄色い画用紙に赤い着物を着たおひなさまを描きました。担任の先生は「背景が黄色で着物が赤、おひなさまが映えますね。素晴らしいです」と褒めてくれました。有頂天になった女の子は家に帰ってから、そのことを母親に伝えました。

 すると、母親は「実際に赤いブラウスを着て、下に黄色いスカートをはいたら、色が合わなくてちぐはぐだから気を付けなさいよ」と言ったのです。学校で褒められた絵については、何も言ってくれませんでした。

「よかれと思って」否定する親

 実は、この2つの話はどちらも私と母のエピソードです。世の中の親が全てこうというわけではありませんが、親は「子どものためによかれと思って」、できていない部分をあれこれと掘り返したり、否定したりしがちです。

 私の母がまさにそうでした。小学5年のとき、夏休みの自由研究として「“お母さんの怒り方”折れ線グラフ」を作っていたら、母に見つかってとても怒られ、担任には提出できませんでした。

「ちゃんとしなさい」は1日に何回か、午前・午後の割合はどうかなどを分析し、データにして見せたら、母は自分の叱り方について、何か気付いてくれたかもしれません。気付いてくれなかったとしても、私自身が「親は夕方に叱る回数が多くなる。気を付けよう」と叱られないコツが分かったかもしれません。

「お母さんが“早くしなさい”を1日何回言ったかデータを取り、グラフにする」のは親子共に気付きがあり、面白いのではないかと私は思います。

息子によって断ち切れた「負の連鎖」

 私の息子は知的障害を伴う自閉症児として育ち、21歳になりました。時々、「定型発達児が生まれていたら、どんな子育てをしていただろう」と考えることがあります。

 どんなにネットサーフィンをして情報を集めても、子育て本を読んでも、子育てのお手本は自分の体に染み付いた「過去に自分がされた子育て」になりがちです。もし、私が定型発達の子を授かっていたら、きっと、“子育ての連鎖”によって、かつて、私が母にされたように、できていない部分だけに目がいく「ダメ出し母さん」になっていたと思います。

 けれども、私のところにやってきたのは障害児。よい意味で目線を低くして、子育てができました。例えば、先日、息子が私に「涼しいね」と自ら言ってきました。自閉症児として、相手に共感を求める言葉を発するのはめったにないことなので、私は感動し、喜びました。

 また、障害児を育てる知人は「今までで一番うれしかったことは、おうむ返しだった息子が母親の声掛けに対して『うん』と答えたこと」と話していました。私には知人のうれしい気持ちがとてもよく分かります。息子は動物園に連れていっても、ゾウの前で、その場と全く関係のない、好きでこだわっている便器の型番をずっとブツブツ言っていたからです。

 私は息子に、独り言をずっと言っているよりも、私が言った「ゾウがいるね」に「うん」と言ってほしかったのです。だから、知人の気持ちがとても分かります。定型発達児を育てている人に比べて、期待値が低いのかもしれませんが、こうした幸せを感じられることは親として幸せだと思います。

できていることを評価する

(C)あべゆみこ
(C)あべゆみこ

 子どもがおもちゃを散らかしているときだけ、「どうして片付けないの!」と叱り、片付けているときは何も言わない。子どもがグズグズしているときだけ、「早くしなさい!」と叱り、時間通りに行動できたときは無言――。これは、テストで正しく答えられていない部分だけをネチネチと虫眼鏡でチェックする“添削先生”によく似ています。

 こうしたやり方を少しだけ変えてみませんか。「できているところを認め、評価する」のです。例えば、片付けない子の場合。「何で散らかすの!」「どうして片付けないの!」と、おもちゃを片付けないことばかりにスポットを当てて叱るのは典型的なNG例です。たまたま片付いている状態をすかさず見つけて、「わあ、片付いている。頑張って片付けたね」と声を掛けましょう。

 食事を残す子の場合。「好き嫌いしてはダメよ!」「残さず、全部食べなさい!」「まだ、お皿に残っているじゃない!」と叱るのはNG。「お肉はよく食べていて偉いね。お野菜も食べてみよう」、半分程度は食べていたら、「半分は頑張って食べたんだ。もう一息だね」と声を掛けてあげてください。

 おもちゃの奪い合いで、きょうだいや友達とけんかばかりしている子の場合は「どうして、お友達と仲よくできないの!」「貸してあげなさい! お兄ちゃんでしょ!」ではなく、「お友達と譲り合って、仲よく遊べているね」と褒めましょう。最初から最後までずっと、けんかしているわけではないはずです。一緒に静かに遊んでいる瞬間を見逃さないようにしましょう。

 ダメ出しされて、「よし、頑張ろう!」となる子どもはいませんが、できているところを評価されて、「頑張ろう」となる子どもはたくさんいます。できていないところには片目をつむり、できている部分だけを評価してみましょう。きっと、子どもの態度が変わってくるはずです。先の長い子育てですから、親も子もストレスなく続けたいものですね。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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