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批判や反論寄せるSNSアカウントを公人が「ブロック」、法的問題はない?

河野太郎行政改革担当相が自身のツイッターの投稿に対し批判や反論されたとき、そのアカウントをブロックすることに賛否両論が起こっています。国会議員など公人が個人のアカウントをブロックすることに、法的問題はないのでしょうか。

河野太郎氏(2021年9月、時事、代表撮影)
河野太郎氏(2021年9月、時事、代表撮影)

 自民党総裁選に立候補している河野太郎行政改革担当相は、自身のツイッターアカウントでの投稿に対して、誹謗(ひぼう)中傷と思われるメッセージが来た場合、そのアカウントのアクセスを制限する「ブロック」機能を使っていることで有名です。一方、過度な誹謗中傷、名誉毀損(きそん)、脅迫以外にも、投稿への批判や反論までブロックしているとして、「正当な批判や反論をする人までブロックすべきではない」という声もあります。

 米国のトランプ前大統領については、自身を批判するツイッターをブロックしたことに対して、「言論の自由を保障する合衆国憲法に違反する」との違憲判決を米国の裁判所が出ていますが、日本でも、国会議員など公人が批判や反論をブロックすることで法的問題を問われる可能性はないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

日本では違憲性や違法性はなし

Q.日本では「言論の自由」について、憲法でどのように規定していますか。

佐藤さん「日本国憲法21条1項は『集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する』と定めています。表現の自由は自分の意見や思っていることを、国から邪魔されることなく表明できる自由です。それにより、各自が自分らしくあることができます。また、さまざまな表現活動がなされることで、国民がいろいろな意見に触れたり、議論したりすることが可能になり、政治的な意思決定を適切に行えるようになります。

つまり、表現の自由には、一人一人の自分らしさを守るという個人的な価値と、健全な民主政治を支えるという社会的な価値の2つの価値があるということです。ただし、表現の自由も無制限ではなく、『公共の福祉』による制約を受けます。例えば、人をばかにしたり、名誉を傷つけたりする表現は表現の仕方によって、侮辱罪や名誉毀損罪という犯罪として処罰されることがあります」

Q.SNSへの投稿に、見知らぬ人から批判や反論が寄せられた経験がある人は多いと思います。中には、批判や反論をした人のアカウントをブロックする人もいると思いますが、ブロックすることは違法なのでしょうか。

佐藤さん「ブロックすることは違法ではありません。例えば、ツイッターのブロック機能については『他のツイッターアカウントとのやりとりをコントロールするのに役立つ機能です』と紹介されており、他のアカウントとの関係調整のための一つのツールとして存在していることが分かります。

そもそも、先述したように、表現の自由の制約が問題になる典型的なケースは、国家が国民の表現を妨害するような場合です。個人が他人のアカウントをブロックしたとしても、他人の表現の自由を違法に侵害したとはいえません」

Q.ではなぜ、河野大臣が同じことをした際、批判されるのでしょうか。よく、「公人だから」といわれますが、公人がブロックしてはいけない理由とは何でしょうか。

佐藤さん「批判の背景には、河野大臣が選挙で選ばれた国会議員という公人であるため、『河野大臣のアカウントは“誰でも自由に議論できる場”として提供されるべきであり、それを制限することは、国民の表現の自由や知る権利の制約につながる』という考え方があるのだと思います。

例えば、『言論活動することを主目的とする場』である公立の会館などで、国や自治体が表現内容を理由に『使用を許しません』と簡単に言えてしまったらどうでしょう。国や自治体に都合の悪い内容の集会を開くことができなくなり、多様な意見に触れたり、議論したりする機会が失われ、健全な民主政治が実現できなくなってしまいます。そこで、こうした場での表現内容による規制には極めて慎重になるべきだと考えられています。

『公人はブロックすべきでない』という考え方は、公立の会館と公人のアカウントを近いものと捉えているのだろうと思います。実際、トランプ前大統領のブロックを違憲としたアメリカの裁判では、トランプ前大統領のアカウントを『議論の場』として重視していました」

Q.日本でも米国のように、国会議員など公人が批判や反論をブロックすれば、違憲性を問われるのでしょうか。

佐藤さん「日本では、違憲性が認められることはないだろうと思います。河野大臣のアカウントも含め、公人であっても、SNSのアカウントには私的な側面が強いと日本では考えられていると思うからです。公人が自分に対する批判や反論をSNSでブロックすることと、国家や自治体が都合の悪い表現であることを理由に、公立の会館の使用を制限することを同一視するのは難しいでしょう。

違憲性や違法性の問題は生じにくいとはいえ、公人がブロックすることの是非について、国民の間ではさまざまな意見があると思います。『公人はブロックすべきではない。自分の気に入らない表現を勝手にブロックすることで、国民の議論の場を奪うことになり、それは民主主義の観点からも悪だ』と考える人がいる一方、『公人であろうと、ののしられるまま汚い言葉を受け止める必要はなく、ブロック機能がついている以上、それを使用することに何ら問題はない』と考える人もいるでしょう。

これだけ、公人のSNSの使い方に注目が集まる今、選挙で政治家を選ぶとき、SNSへの対応も一つの判断要素にする国民が増えてくるのではないかと思います」

Q.私たちがツイッターの投稿に対して、見知らぬ人から批判や反論が寄せられたとき、「気に入らない」としてブロックしたとします。その行為をブロックされた人から訴えられたとすると、訴えは認められるのでしょうか。

佐藤さん「先述したように、個人がブロック機能を使用したとしても、それだけでは違法性がないため、訴えられることは考えにくいでしょう。仮に訴えられたとしても請求は認められません。ただし、いじめやハラスメントの一環としてブロックが行われ、ブロック以外にも、日頃からさまざまな嫌がらせをしているようなケースでは、ブロックする行為についても法的に問題とされる可能性があります。

友達や同僚など、知人に対してブロックし、相手が不快に感じて人間関係がこじれてしまうこともありますから、ブロック機能をどう使うかを含め、SNSでの正しいコミュニケーションを心掛けることが大切だと思います」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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