何やってんだ 線はみ出した撮影目的の鉄道ファンに駅員怒声、従わないと違法?
列車を撮影しようとする鉄道ファンの一部が駅員の注意に従わず、マナー違反を続けるケースがあります。駅員の注意に従わないことは、違法行為にならないのでしょうか。

先日、千葉県船橋市のJR南船橋駅で、一部の鉄道ファンが駅ホームの黄色い線の内側から出て、列車を撮影しようとしたことから、駅員が怒鳴って注意したことが話題になりました。報道によると、駅員は黄色い線の内側で撮影するよう鉄道ファンに要請し、その約束のもとで撮影を認めていたようです。
こうした、駅における鉄道ファンのマナー違反とそれを注意する駅員という構図は最近よく、報道などで見聞きします。駅員の注意に従わない鉄道ファンの行為は運行に支障を来す可能性があり、マナー違反で済まないように思いますが、鉄道ファンが駅員の注意に従わないことは違法行為にならないのでしょうか。
佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
立ち入りで往来危険罪、過失往来危険罪も…
Q.一部の鉄道ファンの迷惑行為でよくあるのが、列車を撮影するために、駅構内の立ち入り禁止の場所や線路内に立ち入るなどの行為です。こうした迷惑行為はどのような罪に問われ、どのような罰則がありますか。
佐藤さん「駅構内の立ち入り禁止の場所や線路内に無断で立ち入れば、鉄道営業法違反の罪に問われる可能性があります。鉄道営業法37条は『停車場そのほか鉄道地内にみだりに立ち入る行為』を禁じており、罰則は1000円以上1万円未満の科料になります(罰金等臨時措置法2条3項、刑法17条)。
こうした場所に無断で立ち入ることで鉄道会社の業務を妨害した場合、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性もあります。例えば、駅員の制止を振り切って線路内に立ち入り、退去するよう求められても従わず、列車の運行に遅延を生じさせたようなケースでは罪に問われることもあるでしょう。威力業務妨害罪の法定刑は3年以下の懲役、または50万円以下の罰金です。
さらに、立ち入りによって、列車の往来に危険を生じさせた場合、往来危険罪(刑法125条)や過失往来危険罪(同129条)に問われる可能性があります。法定刑は往来危険罪が2年以上の有期懲役、過失往来危険罪が30万円以下の罰金です。このように、鉄道会社の業務を妨害したり、列車の往来に危険を生じさせたりした場合、問われる罪は重いものになります」
Q.駅員の注意に従わないこと自体が罪に問われることはないのですか。また、仮に注意に従わないことで鉄道会社に何らかの損害が発生した場合、賠償責任は求められないのでしょうか。
佐藤さん「駅員の注意に従わなかったこと自体が罪に問われることはありませんが、注意に従わなかったことにより、何らかの損害が鉄道会社側に発生する可能性が高まるので従うべきです。注意に従わなかったことで鉄道会社に何らかの損害が発生した場合、民事上の不法行為となり、賠償責任を負う可能性があります。
乗降客の多い駅で線路内への立ち入りなどにより、列車の遅延や運休を生じさせれば、振替輸送費等の損害賠償額は高額になり、例えば、線路内に立ち入り、列車事故を起こしたケースで、700万円程度の賠償を命じた裁判例などもあります。死者が出る事故を起こせば、請求額が1億円近くになる可能性もあります」
Q.違法行為をした人を、実際に鉄道会社が警察に届け出ることはあるのでしょうか。
佐藤さん「駅員の注意があったかどうかや相手が鉄道ファンであるかどうかにかからず、線路内への無断立ち入りなどについて、鉄道会社が警察に通報したり、警察が書類送検したりすることはあります。例えば、4年前、有名なタレント2人が線路内に立ち入ったことを理由に鉄道営業法違反に問われ、書類送検されたことが話題になりました。この件は、踏切の通路からすぐ脇に立ち入ったにとどまり、電車の往来への支障も生じていないことや、当人らが反省していることなどから、不起訴処分となりました。
危険を避けるために駅員が注意したにもかかわらず、それに従わずに、遅延や危険を生じさせたといった悪質なケースでは、鉄道会社が被害届を出すことも十分考えられるでしょう」
Q.今回話題になったJR南船橋駅のように、危険を避けるために駅員がつい、乱暴な言葉遣いで注意してしまうこともあります。こうしたときの乱暴な言葉遣いは罪に問われてしまうのでしょうか。
佐藤さん「報道によると、駅のホームに集まり、黄色い線から出た鉄道ファンに対し、『黄色い線の内側に下がっているんじゃねえのか!』『何やってんだ、おめえらよ! 黄色い線の内側だって話だっただろ』と怒鳴ったり、危険な立ち入りをしている1人の鉄道ファンに『おい! 話が違えだろがよ』と詰め寄ったりしたようです。
しかし、法的に見れば、この程度の乱暴な言葉遣いであれば、罪に問われることはありません。軽犯罪法は『公共の場所において多数の人に対して著しく粗野、もしくは乱暴な言動で迷惑をかける行為』を禁じていますが、駅員は内容としては正当な注意をしたにとどまり、周囲に迷惑をかけているわけではないからです。
ただし、乱暴な言葉遣いで注意した場合、相手が感情的になり、もみ合い等のトラブルに発展しかねません。今回の駅員も注意が行き過ぎてしまったことを反省しているようですが、できる限り穏当に毅然(きぜん)と注意することが大切だろうと思います」
Q.列車の運行に支障を来す一部の鉄道ファンの行為をやめさせるためには、法律を厳しくして抑止力を高めるべきでしょうか。あるいは、鉄道ファンのモラルに頼るしかないのでしょうか。
佐藤さん「先述したように、現行法も決して甘いものではなく、列車の運行に支障を来すようなケースでは重い法的責任を負う可能性があります。そのことをもっと周知し、迷惑な行為の抑止につなげていくのが一つの方法ではないかと思います。
鉄道ファンの中には、鉄道が好きであるが故に無我夢中になり、迷惑行為に及んでしまう人がいるのでしょう。しかし、駅員の指示に従わず、無断で立ち入る行為などは自分や他人を危険にさらし、鉄道の運行にも影響を及ぼす可能性がある非常に問題のある行為です。危険性や事の重大さを理解してもらうことが必要だと思います。そして、法律やマナーを守ることが、大好きな鉄道やファン活動を守ることにもつながるということをファンの皆さんが共有することが大切ではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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