人影のない大通公園 外国人に依存しない観光振興策「プランB」は可能か
札幌市在住の防災・危機管理アドバイザーで医学博士でもある筆者が、新型コロナウイルス対策や防災、危機管理などについて論じます。

2月1日、最低気温が氷点下8度を記録した日の札幌市。いつもの年なら、高さ15メートルほどの雪像の準備が進んでいるはずの大通公園にはただ、真っ白な雪が積もり、観光客でにぎわうはずの街には人影がほとんど見えませんでした。新型コロナウイルスの影響で、例年通りの「さっぽろ雪まつり」が開催できなくなり、にぎわいが消えた2月の札幌で「観光振興におけるプランB」について考えてみたいと思います。
雪像が消えた大通公園
北海道旭川市出身の筆者にとって、さっぽろ雪まつりは身近な冬の一大イベントでした。1月になると連日、地元テレビ局のニュースでは雪まつりの話題が流れます。雪の搬入に始まり、自衛隊やボランティアの人たちの手による雪像造り、雪まつりを見ようと訪れる観光客の波…。大きなもので高さ15メートルほど、“小さな”ものでも人の背丈を上回る雪像や氷像は子どもはもちろん、大人も十分に楽しめ、中国をはじめとする外国人観光客にも好評を博していました。
筆者の個人的な思い出としては、子どもの頃、雪像の絵はがきを買ってもらうのが楽しみでした。雪像の中でお気に入りは、お城です。2016年4月に熊本地震が発生しましたが、ちょうどそのとき、筆者は熊本市に在住。大きく崩れた熊本城を見て、第38回(1987年)の雪まつりで制作された熊本城を思い出していました。ちなみに、地震翌年の2017年2月の雪まつりでは、熊本県のPRキャラクター「くまモン」が、一般市民が参加して造る市民雪像として登場。熊本の復興を願う札幌市民の思いが雪像に込められました。
そんなさっぽろ雪まつりも新型コロナの影響を受け、今年はオンラインのみの開催となりました。雪像は小規模のものが数体造られたのみで「実質的な中止」という報道も流れました。雪まつりの経済効果は札幌市の2018年3月の調査で、市内総消費額が494億円、生産波及効果は650億円と推計されています。特に外国人客1人当たりの市内消費額は7万円を超え、国内からの観光客を大きく上回ります。例年なら、北海道各地を巡るツアーも組み込まれることが多いため、道内他地域への影響も大きいものがあります。
新型コロナ関連での道内の倒産件数は、この原稿を書いている2月初めの段階で既に30社を超えています。その多くは観光やレジャー産業、また、海外からの観光客をメインにした、あるいは顧客対象を海外客向けに変えた飲食店です。免税商品をメインにした中国資本のドラッグストアまでがいくつか消えています。
新千歳空港は北海道など関係機関が国際路線拡大に尽力して、2019年12月に欧州路線が復活しましたが、コロナの影響で今は運航されていません。ニセコ町や富良野市では外国資本が入り、外国人の居住者・従業員が増えましたが、その彼らが失業者になっています。道民のみならず観光従事者の外国人も職を失い、容易に帰国もできず、NPOなどによるフードバンクから食事支援を受けて生活している人も少なくありません。
雪像が戻ってきたとしても…
観光資源が豊富な北海道において、それを糧に商売ができることは幸せなことだと思います。人口減少が進む国内からの観光客に頼らず、海外、特にアジア圏、中国からの大量の観光客を取り込んできたことは道内観光関係業界の努力の成果といえるでしょう。
しかし、外国人観光客や外国資本への依存体質に傾倒しすぎたこと、また万が一、そのインバウンドが失われることを想定していなかったであろうことについては厳しい言い方をすれば、危機管理意識が薄かったのでは?といわざるを得ません。当初の計画が頓挫したときの次善策「プランB」がなかったということです。
コロナ禍を受けて、政府レベルでは、国内需要の喚起を狙って「GoToキャンペーン」が行われましたが、結果的には、新型コロナ再拡大との因果関係が指摘されています。GoToキャンペーンが一時停止となった中で迎えた、さっぽろ雪まつりの季節。閑散とした大通り公園を見て、道民は今、何を考えるべきなのでしょうか。それは北海道だけでなく、観光を重要な産業と考える日本国民すべてにとっての課題かもしれません。
インバウンドに代わる観光振興策、一時しのぎではない「プランB」を見つける、あるいは生み出すことができるのか。もしくは新型コロナを比較的抑え込めている中国や韓国、台湾からの観光客の往来再開を待つのか。観光産業のみならず、すべての人が今、岐路に立っているといえます。1年後、雪像が戻ってきたからといって、観光客が以前と同じように戻ってくる保証はどこにもないのですから。
(防災・危機管理アドバイザー 古本尚樹)
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