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北海道の経験 コロナ収束へ、国民の我慢続くかは「首相の覚悟」次第

札幌市在住の防災・危機管理アドバイザーで医学博士でもある筆者が、新型コロナウイルス対策や防災、危機管理などについて論じます。

緊急事態宣言を出す鈴木直道・北海道知事(2020年2月、時事)
緊急事態宣言を出す鈴木直道・北海道知事(2020年2月、時事)

 新型コロナウイルスの流行が国内で本格化して、1年余りが過ぎました。国内で最も早く流行が広がった北海道は2020年2月28日、独自の緊急事態宣言を発令。その時点からも既に1年がたちました。首都圏などに再び発令された政府の緊急事態宣言が2度も延長されたように、新型コロナ収束の兆しは見えません。北海道民が手探り状態で過ごした初の「緊急事態宣言」を振り返り、現在につながる教訓と課題を考えてみます。

一斉休校の3日後に宣言

 北海道で最初の感染者が確認されたのは2020年1月28日、中国・武漢市から訪れた女性でした。その後、しばらくは道内で新たな感染者は見つかりませんでしたが、中国など海外から多くの観光客が訪れる「さっぽろ雪まつり」閉幕後の2月14日、2人目の感染者を確認。その後は徐々に感染者が増え、2月25日には感染者の累計が35人となり、東京を上回って全国最多を記録しました。

 同日、鈴木直道知事は道内の全公立小中学校の一斉休校を要請。これは安倍晋三首相(当時)が全国一斉休校を呼び掛ける2日前のことでした。翌26日の臨時記者会見で鈴木知事は「前例のない事態で国も答えを見いだすことができない。やり過ぎではないかという批判もあるかもしれないが、政治判断は結果がすべて。結果責任は私自身が負う」と宣言。翌27日には1日だけで感染者が15人確認され、事態はさらに悪化します。

 2月28日、知事は道独自の緊急事態宣言を出しました。臨時記者会見で「(道民の)命を守ることは何事にも代え難い。人の命や健康を守るため、ぜひご協力いただきたい。やれることはすべてやる」と述べ、週末の外出を自粛するよう道民に呼び掛けました。4月以降に国レベルで出された緊急事態宣言と違い、道独自の宣言に法的根拠はなく、強制力もありませんでしたが、札幌市を中心に道内の繁華街の人通りは途絶えます。飲食店やデパートの休業が相次ぎ、非日常の光景が広がりました。

 道民の暮らしはどうだったのでしょうか。筆者はというと、スーパーなどへの買い物は普段通りできたものの外食はほぼゼロ。自宅で食事をすませる日が続き、週末ももちろん自宅で過ごしました。仕事もほぼ在宅でリモートでこなす日々。防災関係の講演もオンラインです。恐らく、多くの道民が似たような生活を送ったのではないでしょうか。最初は不便さを感じましたが徐々に慣れてきました。もちろん、これが「ノーマル」になるなどとは当時は思いもしませんでしたが。

 人の動きが止まれば、経済は大きな打撃を受けます。冬の観光需要が大きい北海道にとって、2月末からの外出自粛は大きな痛手でした。それでも、犠牲を払った効果か、感染者数は波はあったものの減少傾向となり、3月17日には「ゼロ」を記録。同19日に宣言は解除されました。手探りの状態ながら、何とか「第1波」を乗り切ったのです。

調査で「道の緊急事態、評価95%」

 その後、流行が全国的に深刻な状態となり、4月には全都道府県に緊急事態宣言(法的根拠のあるもの)が発令されたのは皆さん、ご存じの通りです。北海道も同様だったわけですが、ここで興味深いデータがあります。

 北海道新聞の4月9日付朝刊一面に「鈴木道政88%支持 道の緊急事態、評価95%」という見出しの記事が載ったのです。4月3~5日に道民を対象に行った世論調査の結果で、鈴木知事の支持率が2019年10月の調査から38ポイントも上昇。独自の緊急事態宣言については「大変良かった」81%、「まあ良かった」14%で、計95%が肯定的に評価するという驚異的な数字を記録したという記事でした。新型コロナへの対応が支持率を押し上げたのは間違いないでしょう。

 ちなみに、このときの調査では内閣支持率(当時の首相は安倍氏)も聞いていますが、「支持する」は37%で「支持しない」59%を20ポイント以上下回りました。支持率は半年前の調査から11ポイントの下落でした。

 北海道は第1波を乗り切ったとはいえ、経済活動や市民の自由を犠牲にしての「成果」です。しかも、知事の手法には批判もありました。独自の宣言の直後から「市民の不安をあおり過ぎだ」「法的根拠がない宣言はいかがなものか」といった声が識者から上がり、3月3日付の北海道新聞には「牛乳、休校で行き場失う」という記事も掲載されました。

 後に全国的な問題となりますが、一斉休校によって学校給食の需要が消え、乳業メーカーや酪農家が大打撃を受けたのです。もちろん、他の地方でも憂慮すべきことではありますが、酪農は北海道の基幹産業です。知事が宣言の「副作用」をどこまで想像できていたか疑問が残ります。

 それでも、道民は知事を支持しました。そして、その後も昨年秋まで、新型コロナへの対応については8割以上の支持率をキープしていたのです(北海道新聞のインターネットモニター調査より)。昨年12月には、感染の再拡大で65.4%(同)に下がりましたが、それでも、国の対応への評価と比べれば、かなりの高さです。

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古本尚樹(ふるもと・なおき)

防災・危機管理アドバイザー

医学博士、防災・危機管理アドバイザー。1968年、北海道旭川市生まれ。北海道大学大学院医学研究科博士課程修了後、東京大学医学部付属病院救急部特任研究員、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター主任研究員、熊本大学大学院自然科学研究科特任准教授などを歴任。現在は札幌市在住で、防災・危機管理アドバイザーとして、新型コロナウイルス対策や企業の危機管理、災害医療、防災対策、被災者の健康問題等について助言、提言を行う。ラジオでコメンテーターも務める。ホームページ(https://naokino.jimdofree.com/)。

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