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「汗」を乾いたタオルですぐ拭くと危険? 熱中症リスクも? 実際は――

夏の外出時や運動時、大量の汗をかくことがありますが、「汗が出るたびに乾いたタオルで拭うのは危険」「熱中症になる恐れも」というネット情報もあります。事実でしょうか。

乾いたタオルですぐに拭うと…
乾いたタオルですぐに拭うと…

 夏の外出時や運動時、大量の汗をかくことがあります。汗をそのままにしておくと不快なため、乾いたタオルやハンカチで汗を拭いたくなりますが、「汗が出るたびに乾いたタオルで拭うのは危険」というネット情報もあります。場合によっては、熱中症になる恐れもあるといいます。事実でしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

気化熱の仕組みが機能しない

Q.まず、汗の役割について教えてください。

森さん「夏の外出時や運動時の汗には、上がり過ぎた体温を下げる大きな役割があります。外の気温が高くても低くても、体温(平熱)は体の機能によって調節され、一般的には36度台前後に保たれていますが、暑い時期や運動時に体温が上がると、体内の水分を皮膚から蒸発させて熱を逃がそうとします。これが『発汗(汗をかく)』という生理現象です。

汗が皮膚の上で蒸発するときに『気化熱』として皮膚の熱を奪うことにより体温が下がり、平熱に保たれるという仕組みです。体温が一定に保たれることで身体機能が正常に働くため、汗をかくことは重要な意味を持ちます。

別の役割として、皮膚に潤いを与え、乾燥から守る効果も挙げられます。しかし、時間がたつとかゆみや炎症などの皮膚トラブルや、においの原因につながるため、汗をそのまま放置しないことも大切です」

Q.「汗を乾いたタオルやハンカチで拭うと、かえって汗が出て脱水状態になり、熱中症の危険もある」という情報があります。事実でしょうか。

森さん「汗が出るたびにすぐ拭き取っていると、脱水症を引き起こす可能性もあります。汗が蒸発するとき、気化熱によって体温の上昇を防ぐ仕組みを説明しましたが、蒸発する前に乾いたタオルやハンカチで汗を拭ってしまうと、この仕組みが成り立たなくなります。

逃げ場を失った熱によって、さらに『暑い』と感じ、体はさらに汗を出すという悪循環につながります。汗になって体内の水分が大量に奪われれば、自分では気付かないうちに脱水状態が進み、体温調節がうまくいかなくなると熱中症になります。目まいや吐き気、倦怠(けんたい)感、重症であれば、けいれんや意識障害などの症状が出る危険性もあるので、注意が必要です」

Q.乾いたタオルやハンカチを使わない方がよい場合、汗はどのようにすればいいのでしょうか。

森さん「ぬれたタオルを持ち歩くか、タオルやハンカチを水道水、あるいはペットボトルの水でぬらし、軽く絞った状態で汗を拭きます。触ったとき、しっとりしている程度に皮膚表面の水分が残った状態になることが大切です」

Q.ぬれたタオルやハンカチがいいということですが、ずっと持ち歩くのは難しいかもしれません。

森さん「市販のウエットティッシュや汗拭きシートなどが便利です。スプレータイプの容器に水を入れて持ち歩き、乾いたタオルやハンカチで汗を拭いた後、皮膚に水を吹き付ける方法もあります。水道水で汗を洗い流し、乾いたタオルやハンカチで軽く押さえるのもいいでしょう。いずれの場合も、水分をすべて拭き取ってしまわないよう気を付けてください。

また、ファスナー付きのビニール袋や携帯用のおしぼり入れを活用するなどの工夫で、ぬれたタオルやハンカチをかばんに入れて持ち歩くことも可能です。固く絞ったタオルを冷凍庫に一晩入れ、朝、それを持って出るという人もいるようです。移動の間にぬれタオルになり、使い始めには涼感を得ることもできます」

Q.今年の夏は熱中症とともに、新型コロナへの対策も必要です。タオルで体の汗を拭いた際、ウイルスがタオルに付着する可能性はあるのでしょうか。

森さん「汗にウイルスは含まれず、汗からの感染はないと考えられていますが、皮膚の表面にウイルスが付着していた場合、汗を拭き取ることでタオルにもウイルスが付着する可能性があります。

タオル、あるいはタオルを触った手指を介して、口や目、鼻からウイルスが体内に侵入する可能性も高くはないものの、あるとは考えられるので、感染が拡大している地域では特に、何度も同じタオルを使用するより、使い切りのウエットティッシュやペーパータオルを湿らせて汗を拭く方が、外出時の感染リスクは下げられると思います。

ちなみに、ウイルスはタオルで増殖しませんが、細菌はタオルで増殖します。衛生面からも、可能なら薄手のタオルハンカチなどを数枚持ち歩くか、使い切りタイプの使用をおすすめします」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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