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新型iPhone背面のレンズに恐怖や嫌悪…トレンドワード「集合体恐怖症」とは? 専門家に聞く

新型「iPhone」の発表が話題になりましたが、背面に3つのレンズが並んだデザインも注目されました。これを見て「集合体恐怖症が出てしまった」という声が上がっています。

背面に3つのレンズが並んだ機種もある新型「iPhone」(2019年9月、時事)
背面に3つのレンズが並んだ機種もある新型「iPhone」(2019年9月、時事)

 先日発表され、話題を集めた新型「iPhone」。3つのカメラが搭載されたことで、背面に3つのレンズが並んだデザインも注目されましたが、黒い丸が複数配置されたデザインについて、たちまちネット上では「集合体恐怖症が出てしまった」「気持ち悪い」「怖くて見られない」などの声が多数投稿され、「集合体恐怖症」が一時、トレンドワードになりました。

 蜂の巣などブツブツとした穴が密集している状態のものを目にしたときに、恐怖や嫌悪感を引き起こす恐怖症のようですが、ネット上では「そんな症状あるのか」という驚きの声がある一方で、「ブツブツを見ると寒気がします」「ハスの実が本当に無理」などの体験談も多くみられます。謎の多い「集合体恐怖症」について、精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

社会的・職業的機能障害があるかどうか

Q.「集合体恐怖症」とは何でしょうか。

田中さん「集合体恐怖症(トライポフォビア)とは、ギリシャ語のトゥリパ(穴)とフォボス(恐怖症)から作られた言葉で、凹(ぼこ)と凸(でこ)の両方を合わせて『ボコボコ』『ブツブツ』『ボツボツ』『イボイボ』した集合体に対して、ひどい恐怖を抱くものです。人によっては、ひどい恐怖のことを『怖い』以外に、『気持ち悪い』『吐き気がする』などと表現することがあるかもしれません」

Q.集合体恐怖症と診断される基準はあるのでしょうか。

田中さん「アメリカ精神医学会の診断基準によれば、『ブツブツ・ボコボコした集合体』という恐怖刺激によって激しい恐怖感が持続するものは『限局性恐怖症』に分類されています。診断基準のポイントとしては次の4点が挙げられます。

(1)その集合体に対して「いつも、即時」恐怖を誘発されること
(2)その恐怖に耐えるか、避けるかしてしまうこと
(3)実際の危険性とは不釣り合いであること
(4)社会的・職業的な機能障害を引き起こしていること

中でも(4)が重要です。『社会生活が送れない』『仕事に支障が出てしまう』というレベルまでいかないと、集合体恐怖症という病気であるとは診断されません。つまり、『ブツブツしたものがとても怖いけど、じっと見さえしなければ大丈夫』という人は、精神医学的には正常範囲です」

Q.集合体恐怖症は、通常どのような条件下で発症しますか。

田中さん「集合体恐怖症は、他の限局性恐怖症と同様に、先述のような『ブツブツ・ボコボコした集合体』の恐怖刺激によって発症します。どのような条件下で発症するか、体調が悪いときほど発症しやすいのか、健康なときでも発症するのかなどは分かっていません。

例えば、新型iPhoneを見るたびに『あの3つ組レンズを見たら怖い(気持ち悪い)』と思うだけなら誰にも起こりうるでしょうし、『そのせいで勉強ができなくなった(会社に行けなくなった)ので、メンタルクリニックを受診しよう』という重症な人はまずいないでしょう」

Q.集合体恐怖症になりやすい人はいますか。

田中さん「集合体恐怖症になりやすい人や体質などは知られていません。ある研究者たちは、『ブツブツ・ボコボコした集合体』に対する恐怖は『伝染病に対する恐れ』に由来するのではないかと報告しています。つまり、医学が現代ほど進歩しておらず、診断はおろか、対処・治療の方法が分からなかった時代、町中の人に伝染して死んでしまうような病気に対して警告・注意喚起する意味で、『ブツブツ・ボコボコした集合体』に対する恐怖があったのだろうといいます。

さらに研究者たちは、医療が進歩してきた現代において、集合体恐怖症がメディアによってあおられ、社会的スティグマ(偏見・差別)を生んでしまったことの問題点を指摘しています。確かに、ホラー映画の殺人鬼や『エルム街の悪夢』のフレディ、『13日の金曜日』のジェイソンのイメージには、集合体恐怖症の心理が使われているかもしれないと感じます。こうした例は、他にもたくさんあるのではないでしょうか」

Q.「高所」や「閉所」など、「○○恐怖症」は他にもさまざまなものが知られていますが、これらは「病気」なのでしょうか。

田中さん「『恐怖症』と診断するには、先述の診断基準(4)の『社会的・職業的な機能障害を引き起こしていること』を確認する必要があります。逆にいうと、そのような機能障害を引き起こしていなければ、病気ではないということになります。例えば、狭い場所に入るとひどい恐怖を覚える人が、普通の広さのオフィスで働くのは問題ないものの、パーテーションで区切られたブースでは働くことができなかったり、怖さでパフォーマンスが落ちてしまったりするとしたら、病気と診断されるかもしれません」

Q.集合体恐怖症を克服する方法はあるのでしょうか。

田中さん「集合体恐怖症は、他の限局性恐怖症と同様、機能障害がない場合は治療対象となりません。つまり、克服する必要がなければ治療もしないということです。先述の『狭い場所で恐怖を覚える人』の場合、症状を克服するよりも、まずは職場環境を整えることを考えるでしょう。広めのブースに移るなど恐怖刺激の方にアプローチします。

どうしても恐怖刺激がそのまま残ってしまう場合、『ひどい恐怖』という症状を軽減するために抗不安薬などを服用することも検討されますが、診断基準の(1)にあるように、恐怖対象に対して『いつも、即時、恐怖を覚える』ことは、すなわち『いつも、即時、抗不安薬などを服用する』ことにつながりかねず、抗不安薬などの依存症になりかねません。そのため、やはりまずは、恐怖対象をどうにかできないかを検討することになるでしょう」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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