実はハードルが高い? 「正当防衛」が成立する4つの条件、弁護士に聞いた
自分に危害を与えてきた相手に対し、やむを得ず害を与える行為を行う「正当防衛」。どのような条件で成立するのか知っていますか。弁護士が詳しく解説します。
犯罪に巻き込まれた際、自分の身を守るために、やむを得ず相手に行った行為を指す「正当防衛」という言葉があります。時に、相手に害を与える行為が取られることもありますが、正当防衛が認められると、本来であれば違法行為となるものも違法とみなされないことが知られています。しかし、具体的にどのような条件で成立するものなのかは、「知らない」「分からない」という人も多いのではないでしょうか。
相手に害を与える行為が違法とならない「正当防衛」。成立する条件とはどのようなものなのか、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
やり過ぎると「過剰防衛」になることも
Q.「正当防衛」はどのような条件を満たした場合に認められるのでしょうか。
佐藤さん「『正当防衛』とは、急迫不正の侵害に対し、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ないでした行為について、違法性を阻却し、罰しないこととしたものです(刑法36条1項)。緊急の場合には、国家による救済が不可能なので、特別に私人による法益侵害行為が許されるべきであること、また、急迫不正の侵害に対し、とっさに反撃行為に出ることは人間の本能ともいえるため、認められています。
正当防衛の成立要件は、一般的に、(1)急迫不正の侵害があること(2)防衛の意思があること(3)反撃行為であること(4)防衛行為の相当性―が認められることとされています」
【(1)急迫不正の侵害があること】
自己または第三者に対し、防衛行為を行うことを余儀なくさせるような、急迫不正の侵害が存在していることが必要です。
「急迫」とは、法益侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることをいいます。そのため、例えば、過去の侵害に対して正当防衛行為を行うことは許されず、「相手からの侵害が一応終わってから、相手に暴力をふるう」ようなケースでは急迫性が否定され、正当防衛とは認められません。
「不正」とは、違法という意味です。例えば、睡眠中の動作などは、不正な侵害と評価できないため、眠っている人からの侵害行為に対して、正当防衛は成立しません。この場合には、緊急避難(自己または他人の生命・身体・自由・財産などに対する現在の危難を避けるため、やむを得ないでした行為であって、他にその危難を避ける方法がなく、また、その行為から生じた害悪が行為によって避けようとした害悪を超えないもの。刑法37条1項)の成否が問題になるにとどまります。
「侵害」とは、故意、過失を問わず、法益に対する実害またはその危険を生じさせる行為です。
【(2)防衛の意思があること】
防衛の意思とは、急迫不正の侵害にさらされていることを認識し、かつ、その侵害を排除するために加害者に立ち向かう意識のことです。そのため、たとえ憤激または逆上したことによる防衛行為だったとしても、直ちに防衛の意思が否定されるわけではありません。攻撃に乗じて、積極的な加害行為に出たなどの特別の事情がない限り、防衛の意思は認められます。
【(3)反撃行為であること】
防衛行為は、侵害者に向けた反撃行為であることが必要です。そのため、防衛のための行為が第三者に向けられるときは、正当防衛は成立せず、緊急避難の成否が問題になるにとどまります。
【(4)防衛行為の相当性が認められること】
防衛行為は「やむを得ずにした行為」であることが必要です。これは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであることを意味します。これを「防衛行為の相当性」といいます。
相当性は、侵害にさらされている法益の種類、侵害行為の態様や激しさ、侵害者の凶悪性、侵害行為による被害が事後において回復可能であるか、侵害者を排除するために現実的に可能な防衛手段は何か…など、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。
防衛行為が相当性を欠く場合、正当防衛として違法性がなくなるわけではありませんが、「過剰防衛」として刑が減軽されたり、免除されたりすることがあります(刑法36条2項)。
Q.正当防衛が認められるハードルは高いと思われますか。
佐藤さん「先述したように、正当防衛は、緊急事態において例外的に、犯罪に当たる行為をしても『違法ではない』とするものです。そのため、認められるハードルはそれなりに高いように思います。
判断の難しいケースとして、例えば、次のような事例があります。
自動車の駐車方法をめぐって、AさんとBさんが口論になりました。年齢も若く、体力も優れたAさんから『おまえ、殴られたいのか』と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をされながら近づかれたBさんは後ずさりしましたが、それでも、Aさんは追いかけてきて目前に迫ってきました。
そこでBさんは、Aさんの接近を防ぎ、危害を免れるため、やむを得ず、普段、果物の皮むきなどに用いていた刃体の長さ約17.7センチの包丁を自分の車から取り出し、腰のあたりで構えた上、約3メートル離れたAさんに対して『殴れるものなら殴ってみい』と言いました。これにAさんが動じず、『刺すんやったら刺してみい』と言いながら2、3歩近づいてきたので、さらにAさんに対し『切られたいんか』と言った―という事案です。
Bさんは、『凶器を示して脅迫する罪』(暴力行為等処罰に関する法律1条違反)などにより起訴され、正当防衛の成否が争われました。大阪高裁は、『防衛手段としての相当性を逸脱している』として『過剰防衛』を認めましたが、最高裁は、Bさんの行為は『Aさんからの危害を避けるための防衛的な行動に終始していたものであるから、その行為をもって防衛手段としての相当性の範囲を超えたものということはできない』として、Bさんに対し、無罪を言い渡しています」
(オトナンサー編集部)
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