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“お前”呼ばわりされて退社…新入社員の行動に「世も末」などの声、パワハラになる?

職場における「お前」呼ばわりが話題に。芸能事務所・吉本興業の新入社員が「お前」と呼ばれたことを理由に退職したエピソードがテレビ番組で紹介され、「立派なパワハラ」などの意見がネット上に上がっています。

「お前」呼ばわりに法的問題は?
「お前」呼ばわりに法的問題は?

 職場での「お前」呼ばわりに関して先日、ネット上などで話題になりました。きっかけとなったのは、お笑いタレントのケンドーコバヤシさんと、千原ジュニアさんが出演するテレビ番組。吉本興業の新入社員が「職場で『お前』と呼ばれた」ことを理由に退職したエピソードが紹介され、この社員は「親にも『お前』なんて言われたことない」「『お前』なんて呼ばれ方する職場で働けない」と上司に訴えたといいます。

 ジュニアさんは「悪いけど吉本には向いてない」、ケンドーコバヤシさんは「世も末」とあ然。ネット上では「辞めるほどではない」「新卒の時『てめぇ』って言われてたよ」「不愉快に感じたのなら立派なパワハラ」「上司でもお前呼ばわりされる筋合いはない」といった意見が上がっています。

「お前」呼ばわりに法的問題はないのでしょうか。グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

「お前」呼ばわりした理由と状況は?

Q.まず、パワハラの定義について教えてください。

刈谷さん「パワハラとは『パワーハラスメント』の略語ですが、法律上厳密な定義がある言葉ではありません。ハラスメントは嫌がらせという意味を持つ言葉ですから、パワハラはパワー、すなわち権力を利用した嫌がらせということとなります。一般的に利用されているパワハラという言葉は、力関係において優位にある上位者が、下位者に対して精神的・身体的に苦痛を与えることを指すとされ、特に職場で発生するパワハラは、上司などが不当に権限を乱用することで部下の人格などを傷つける行為を指すとされています」

Q.具体的に、どのような行為がパワハラに該当しうるのでしょうか。

刈谷さん「パワハラには法律上の定義がないため、どのような行為がパワハラに該当するかを即座に判断できるものではありません。法律上、職場の上司などによる嫌がらせ行為によって部下の名誉が侵害された場合や、うつ病などの精神疾患を引き起こしてしまった場合などには、上司などの嫌がらせは違法行為となります。こうした違法行為はパワハラと評価することができるでしょう。被害者である部下は、嫌がらせ行為をした本人である上司に対し、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、710条)として慰謝料などを請求することができます。さらに、嫌がらせ行為をした上司を雇っていた会社に対しても、損害賠償を請求できる場合があります(民法715条『使用者責任』、415条『職場環境配慮義務違反に基づく債務不履行責任』)。

もっとも、上司は部下を教育指導する立場にあります。上司という立場にあれば、ミスを犯した部下をしっ責しなければならない状況も出てくるでしょう。こうした場合、上司の行為が全てパワハラに該当し、違法な行為であると評価されてしまえば、上司もたまったものではありません。上司の行為が指導監督に該当するのか、違法なパワハラに該当するのかは、行為の目的、態様、頻度、継続性の程度、上司と部下の関係性の程度などを検討し、業務上必要な範囲の行為であるといえるかをもって判断することになります。

例えば『3浪して○○大学に入ったにもかかわらず、そんなことしかできないのか』などと他の従業員がいる前で繰り返し罵倒するような行為は、業務上必要な指導教育の範囲とは言えず、違法だと評価されるでしょう。他方、新人医師が注意散漫な状態で手術をし、あわや医療事故を起こしそうになった場合に、上司の医師が『バカ野郎!ふざけるな!』などと怒鳴ったとしても、病院という患者の生命、健康を預かる職場においては、むしろ上司として当然の指導教育の範囲であると言えるため、違法だと評価されることはないでしょう」

Q.職場で、上司が部下に対して「お前」呼ばわりすることはパワハラでしょうか。

刈谷さん「昔ながらの企業や、いわゆる体育会系の会社などでは、男女問わず『お前』と呼ばれることもあるかと思います。会社に入るまで『お前』と呼ばれたことがない人からすれば、もしかしたら『軽んじられている』と感じることもあるかもしれません。しかし、単に『お前』と呼ばれたからといって、名誉が侵害されたり、精神を病んでしまったりすることは基本的にないでしょう。よって、『お前』と呼ぶこと自体が違法なパワハラ行為だと評価されることはないと言えます。むしろ、『お前』と呼んだ部下に対し、続けてどのような言葉を投げかけたのか、また、どのような場所でその言葉を発したのかという点が、パワハラに該当するかどうかを決することになると言えます。

例えば『お前みたいな奴が職場にいると仕事が回らないわ』などと、多数の同僚の面前で繰り返し罵倒したような場合、上司の行為は社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えていると言えるため、パワハラに該当する可能性が高いでしょう」

Q.「こいつ」「あんた」「貴様」や名前の呼び捨てについてはどうでしょうか。

刈谷さん「上司が部下に対し、『こいつ』『あんた』などと呼んだり、名前を呼び捨てにしたりすることも現実によくあることだと思いますが、『お前』と呼ぶこと自体がパワハラに該当しないのと同様に、呼び方一つで違法なパワハラ行為と評価されることはまずないでしょう」

Q.呼ばれ方によって「パワハラ」と感じた場合の対処法や、トラブルを防ぐ方法について教えてください。

刈谷さん「まず、信頼のおける同僚や知人、会社に設置されている相談窓口や労働局の総合労働相談コーナーなどの第三者に相談しましょう。一人で抱え込まずに相談することで、精神的苦痛が和らぐこともあります。また、その前提として『自分がパワハラを受けている(かもしれない)』と自覚することが重要です。いじめを受けているようで、他人に対して相談することが恥ずかしいと感じるかもしれませんが、自分の身を守るためにも、まずはパワハラ被害を自覚し、第三者などに相談しましょう。

また、パワハラ被害を受けた場合、慰謝料などの請求を考えることもあるでしょう。裁判では、パワハラを受けた被害者がパワハラの事実を証明しなくてはいけません。そのためにも、自ら積極的に証拠を収集する必要があります。言葉の暴力であればICレコーダーを利用して上司の発言を録音したり、物理的な暴力を伴うパワハラであれば病院で診断書を作成してもらったりするなど、証拠を収集し、保全することが重要です」

(ライフスタイルチーム)

刈谷龍太(かりや・りょうた)

弁護士

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。弁護士登録後、都内で研さんを積み、2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/)を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラム執筆などをこなす。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務において活躍。アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決策や提案力に定評がある。