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おっくうだから? 退職代行ならぬ「内定辞退代行」サービスが登場、適法性やリスクは?

一般企業による「退職代行」サービスが広がる中、「内定辞退代行」サービスも誕生しています。その適法性やリスクについて、労働問題に詳しい弁護士に聞きました。

内定辞退代行サービスに問題はない?
内定辞退代行サービスに問題はない?

 社員の代わりに退職の意向を会社に伝える「退職代行」サービスがさまざまなメディアで取り上げられ、認知度が高まっていますが、最近では内定辞退の意思を代わりに伝えてもらう「内定辞退代行」サービスも誕生しています。利用する動機は、「内定承諾書提出後に内定辞退を伝えるのがおっくう」「人事部の担当者が親切だったので気が引ける」「内定辞退を伝えることに気を使うのが割に合わない」といった自己中心的なものが多いようです。

 一般企業が行う退職代行サービスは「非弁行為」で違法との見方もありますが、一般企業が行う内定辞退代行サービスは適法なのでしょうか。また、安易に利用することにリスクはないのでしょうか。労働問題に詳しい、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

非弁行為を弁護士以外が実施する

Q.一般企業が行う「内定辞退代行」サービスに法的問題はないのでしょうか。

刈谷さん「確立した裁判例がないため、私見となります。一般企業が内定辞退の代行を行うことは、たとえ顧問弁護士がついていたとしても、弁護士法72条に定められている非弁行為(弁護士のみに許された行為を弁護士以外のものが有償で実施する違法行為)に該当し、違法なサービスを提供していると考えています。

『内定』は、一般に『始期付(しきつき)解約権留保付労働契約』(就労開始日を労働条件に付けるなどした契約)と考えられ、内定通知の発信により成立する労働契約(試用労働契約ないし見習社員契約)のことです。そのため、内定辞退は労働契約の解約と考えられ、このような労働契約の解約の意思表示を代行することは、本来は弁護士のみが行うことが可能な職務とすべきです」

Q.違法なサービスと考えられるとのことですが、内定辞退代行サービスを行っている一般企業は、なぜ違法だと思っていないのでしょうか。

刈谷さん「代行をしている一般企業は、労働契約を解約する意思表示を『使者』として伝えるだけで、弁護士だけに許された『交渉』は行わないため、非弁行為ではないと思っているかもしれません。しかし、専門家以外が法律問題を取り扱うと、結果的に依頼者の利益が損なわれる可能性が出てきます。

非弁行為を取り締まっている目的は、専門家以外が法律問題を取り扱うことで依頼者の利益が損なわれることを防ぎ、それにより依頼者の利益を保護することにあります。そのため、労働契約の解約という法律問題を含む内定辞退について、専門家ではない一般企業が行うことは、実質的には非弁行為にあたり、違法なものと考えます」

Q.「退職代行」サービスは、退職を申し出ても会社側が辞めさせないなど労働者の不利益を救済する側面もあり、公益性はあると思います。新卒採用や中途採用の内定者が内定辞退を伝えるときにも、内定者が不利益を被るケースがあるのでしょうか。

刈谷さん「内定の場合、まだ実際に働いていないこともあり、退職の場合ほど会社が強引に引き止めるケースは多くないように感じます。ただ、一部の企業では、内定を辞退すると『採用や研修にかけた費用が無駄になり、損害が生じた』として、損害賠償請求をしてくるケースもあります。企業から損害賠償するなどと言われると、内定者は辞退するのをためらったり、諦めたり、必要のない損害賠償金を支払ったりといった不利益を被るケースも出てきます」

Q.内定辞退を表明することで、内定者が不利益を被る可能性があるのですね。そう考えると、内定辞退代行サービスは公益性があるということでしょうか。

刈谷さん「弁護士による内定辞退代行サービスもありますが、これは公益性があると思います。内定者の多くは大学生ということもあり、社会の仕組みや法律を知らなかったり、知っていたとしても『損害賠償する』と言われて内定辞退を申し入れられずに悩んでいたりする場合が多いからです。このような内定者の不利益を除去し、適正な内定辞退を手助けする内定辞退代行サービスは、内定者の法的保護、ひいては適正な労働市場の形成といった公益性があるものといえます」

Q.弁護士による内定辞退代行サービスも、以前からあったのですか。

刈谷さん「以前からありましたが、内定辞退代行サービスというより、労働問題の一つとして弁護士が関わってきていたという方が正確かもしれません。退職も内定辞退も労働契約の解約という点では同じで、このような労働問題は以前から問題となっていたからです」

Q.一般企業による内定辞退代行サービスが広がることを、どのように思われますか。

刈谷さん「一般企業による内定辞退代行サービスが広がることには危惧を感じています。確かに、一般企業が内定辞退代行サービスを展開することで、安い費用でサービスを受けられ、内定辞退者にとってメリットもあるように思えます。しかし、内定辞退は、労働契約の解約という法律問題を含むもので、単に内定辞退を代わりに伝えればよいというものではありません。

適法に内定辞退するためには、やはり専門的な知識や経験が必要です。また、内定者が安価なサービスを利用し、かえって不利益を受けたり、サービスを行う会社との間でトラブルになったりといった二次被害が生じる可能性もあります」

Q.それでも、退職代行と同様に普及するのでしょうか。

刈谷さん「今後の労働市場にもよりますが、退職代行と同様に普及するとはいえないと思います。退職の場合と異なり、内定辞退で問題となるケースは限定的と考えられます。そのため、既存の退職代行サービスに付加する形で内定辞退代行サービスも行うという形になるのではないでしょうか」

Q.違法行為の可能性があるということですが、それでも「コスパがよい」という理由で、一般企業が行う内定辞退代行サービスを利用しようとする人もいます。注意すべきことは何でしょうか。

刈谷さん「まずは、サービス内容(契約内容)に注意すべきです。内定辞退代行として、何をやってくれるのか、どこまでやってくれるのか、費用の総額、追加料金の有無、また、解約できるのか、その場合、違約金などの費用がかかるのかなど、サービス内容についてしっかりと確認することが、後のトラブルを防ぐという意味でも大切です。また、一般企業であり弁護士とは違うという点にも注意すべきです。内定辞退も法律問題の一つであり、内定辞退に関して問題が生じた場合、一般企業でできることは限られていることに留意すべきです」

(オトナンサー編集部)

刈谷龍太(かりや・りょうた)

弁護士

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。弁護士登録後、都内で研さんを積み、2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/)を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラム執筆などをこなす。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務において活躍。アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決策や提案力に定評がある。

コメント

1件のコメント

  1. 就活時代、バブル崩壊前夜的な、企業もちょっと採用減らそうかという時期だったので、地方3流大はもうすでに大苦戦状態。自分もそうだが周りを見ても、採用辞退なんてぜいたく言ってられるのは本人偏差値、スキルはともかく一流大でもない限り受けた採用に食らいつかないとやってられなかったので、辞退の連絡ぐらい自分で何とかしろやって感じ。って言うかその程度のこともできなくてよく採用もらえたもんだ。