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話題の退職代行サービス、「引き継ぎが面倒」などの理由で利用される懸念はない?

「業務の引き継ぎが面倒」などの理由で「退職代行」を利用できるのか、弁護士に聞きました。

退職代行が自分勝手な理由で利用される可能性は?
退職代行が自分勝手な理由で利用される可能性は?

 昨年から、一般企業が行う「退職代行」サービスが注目を集め、盛んにメディアで取り上げられています。しかし、このサービスは、新たに誕生した画期的なサービスというわけではありません。過酷な労働環境でありながら、意図的に退職を妨害され困っている労働者を助けることを目的に、ブームになる前から弁護士の業務の範囲として行われていたそうです。

 注目を集める退職代行ですが、「上司に退職を言うのがおっくう」「業務の引き継ぎが面倒」といった自分勝手な理由で利用される懸念はないのでしょうか。労働問題に詳しく、退職代行業務も行う、グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

労働に関する法律問題が付随

Q.刈谷弁護士は「退職代行」業務も行っているそうですが、どのような目的で行っているのですか。

刈谷さん「本来、退職(労働者からの辞職)は法律上、2週間の予告期間をおけば“いつでも”可能です(民法627条1項)。しかし、労働者の中には、この法律を知らない人、知っていても、会社側の人材不足で『辞めてもいいが給料は払わない』と伝えられるなど、さまざまな事情から会社に辞職を申し入れることができずに悩んでいる人が多くいらっしゃいます。そこで、このような労働者の手助けになる目的で退職代行を行っています」

Q.依頼者が勤める会社とは、どのような交渉を行うのですか。

刈谷さん「退職代行だけでいえば、交渉というより代理人として、労働契約を解約する意思を会社に伝えます。ただし、実際には、退職代行だけを行うことはまずありません。労働に関する法律問題が付随しているケースがほとんどです。

たとえば、『辞めるなら損害賠償請求をする』と会社に言われている、未払いの給与・残業代がある、消化していない有給休暇がある、セクハラ・パワハラを受けていた、などです。これらの法律問題も含めて会社と交渉することになります」

Q.弁護士の協力を得て、一般企業が退職代行を行うことをどのように思いますか。

刈谷さん「違法であるとした裁判例などはなく、あくまで私見ですが、顧問弁護士がついているにせよ、一般企業が退職代行を行うことは、弁護士法72条に定められている非弁行為(弁護士のみに許された行為を弁護士以外のものが有償で実施する違法行為)に該当し、違法なサービスを提供していると考えています。労働契約解約の意思表示を代行することは、本来、弁護士のみが行いうる職務とすべきです」

Q.退職代行を行う一般企業は、違法と思っていないのでは。

刈谷さん「退職代行を行う一般企業は、労働契約を解約する意思表示を『使者』として伝えるだけで、弁護士だけに許された『交渉』は行わないので、非弁行為ではないと思っているでしょう。しかし、非弁行為を取り締まっている目的は、専門家以外が法律問題を取り扱うと結果的に依頼者の利益が損なわれてしまうことから、それを保護するためです。

たとえば、『会社側から何か言われたら自分で解決してください』というスタンスで退職代行を行っている一般企業の行為は、形式的にはともかく、実質的に見たときにどうなのか、甚だ疑問と言わざるを得ないでしょう」

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刈谷龍太(かりや・りょうた)

弁護士

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。弁護士登録後、都内で研さんを積み、2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/)を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラム執筆などをこなす。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務において活躍。アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決策や提案力に定評がある。

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