「汗だく運転手」用の22度から「思いやり」の28度まで オフィスの冷房事情を聞いてみた
オフィス閑散で28度→26度に
冷房の設定温度が固定されるまでに、紆余(うよ)曲折を経たケースも散見されました。
「うちは26度で固定だったと思います。クールビズが導入された当初はきちんと28度でやっていましたが、社員から『全然涼しくない』と不満が出たのをきっかけに、しばらくは『各自工夫で乗り切るべきだ』『暑くて仕事の能率が落ちるから28度に従う必要はない』『仕事の能率より環境問題への貢献(クールビズの実践)に重きをおくべきではないか』などと、緩い議論が交わされていました。
ある頃から、職種上外回りできる社員たちが暑いオフィスを嫌がって、こぞって外に出て、なかなか社に帰ってこないようになり、オフィスが閑散とし始めました。それを見た社長が心配になって、『28度は取りやめ』と宣言して、なんやかんやで26度に落ち着きました」(30代男性)
妊娠した社員に配慮
28度を貫いているところでも、その理由はさまざまなようです。
「社員数20人ほどの会社に勤めています。冷房の温度設定権は総務部長が実質的に握っていて、常に28度です。やはりそれだとかなり暑いので、誰かが温度を勝手に下げたこともあったのですが、総務部長が厳しく監視していて、温度が変えられているのを発見すると怒り狂います。そうなると周りがいろいろ大変なので、今では温度をいじる社員はいなくなりました。
部長に『“クールビズは28度じゃなくてもいい”と政府が言っています』と伝えた人もいるのですが、『28度でなんの問題もない』とまったく取り合ってくれなかったそうです。そもそも部長は真夏でも長袖のワイシャツをずっと着ているような人で、おそらく『クールビズ導入前から自分は暑いのを我慢してしっかりやってきたのだから、他の社員もそうするべきだ』と考えているのだと思います。
社長に直訴したこともありますが、現状維持でした。総務部長と社長は親戚で、そちらの方の立場的に、社長は部長にあまり強く言えないみたいですね…。
だから今は、社員は各自、相当な暑さ対策をしています(笑)。私はもうあの暑いオフィスには慣れましたが、自宅に帰って冷房を効かせると、本当に天国に思えます」(30代男性)
社員が不満を口にしながら、それでも苦笑して納得しているうちは、まだいいかもしれませんが、聞いたところ、なかなか劣悪な労働環境のようです。勤務先の環境に問題があると感じた場合は、総合労働相談コーナーなど行政機関を頼ってみるのも選択肢の一つかもしれません。
反対に、みんなが率先して「28度で行こう」と一致団結している職場もあります。
「社員が10人もいない小さな会社ですが、その分アットホームな雰囲気があります。
ある女性社員が妊娠して、数カ月後に寿退社することになりました。社員一同彼女のことをお祝いし、『体が冷えないように冷房の温度を28度にしよう(※以前の温度は26度)』となりました。
彼女は『皆さんのご迷惑になりたくありません。自分用の膝掛けも持参しているし、その必要はありません。お気持ちだけでもうれしいです』と遠慮していたのですが、社長が『せっかくの機会だから、省エネにもなるし、28度にしよう』と言って、そう決まりました。
そして冷房28度勤務が始まって、みんな『意外と暑くない』ことに気づきました。彼女は無事寿退社していきましたが、その後もわが社では『冷房28度』が続いています」(40代男性)
冷房の効き具合にはいくつかの要因が関係します。エアコンの性能や新しさ、フィルターの汚れ具合、部屋の広さ、オフィスがある場所の日当たり…などなどです。そのため、温度設定が28度で耐え難い暑さとなるオフィスもあれば、充分な涼感が得られるオフィスもあります。
たかが「冷房の設定温度」ではありますが、よくよく掘り下げてみると、そこにその職場なりのドラマが垣間見えるのが面白いですね。今夏は電力逼迫(ひっぱく)もあって厳しい暑さと向き合わなければなりませんが、皆さんも無理のない範囲で温度設定していただければ、と思います。
(フリーライター 武藤弘樹)
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