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歯が折れた→「牛乳に浸す」って本当に正しいの? 真偽を歯科医師に聞いてみた

折れたり抜けたりしてしまった歯を「牛乳に浸して保管」する…そんなインパクトの強い方法が知られていますが、本当に正しいのでしょうか。実際のところを歯科医師に聞いてみました。

「歯を牛乳に浸す」とよく聞くけど…
「歯を牛乳に浸す」とよく聞くけど…

 転んでぶつけたときなど、外傷が原因で突然、歯が折れたり、抜けたりしてしまうことがあります。すぐに歯科医院へ行くことができればよいのですが、それが難しい場合、「折れた歯、抜けた歯を牛乳に浸す」という家庭での保管方法が知られています。しかし、「歯を牛乳に浸す」というインパクトの強さからか、「この方法って本当に正しいの?」「どうして牛乳?」「カルシウムだから?」「水じゃダメなの?」と、その真偽について半信半疑の人もいるようです。

 何らかの原因で折れたり、抜けたりしてしまった歯を「牛乳に浸す」のは、本当に正しい方法なのでしょうか。幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。

「牛乳」は昭和の時代に推奨された方法

Q.一般的に、「永久歯が折れる、抜ける」原因や理由として多いのはどういうものですか。

宮本さん「永久歯が折れる、抜ける原因で最も多いのは、『ぶつけた』『転んだ』『(物が)当たった』といった外傷です。特に、上の前歯は外傷を受けやすい上、根が1本の円すい状になっているため、抜けやすいのが特徴です。

外傷を受けた際、全く治療したことのない歯は折れるよりも抜けることが多く、折れる歯の多くは差し歯治療をした歯です。差し歯治療した歯は構造的に、歯を補強するために歯の中心に金属の土台が装着されているのですが、この土台が外傷を受けると、歯にくさびを打ち込んだように働き、歯が折れてしまうのです。

なお、奥歯が外傷で根から抜けることはあまりなく、ほとんどのケースでは一部が折れます。実際、私が学生時代にラグビーの試合でタックルをし、脳震とうを起こすほどの激しい衝撃を受けた際も、奥歯は抜けずに折れました」

Q.折れたり、抜けたりした歯の保管について、「牛乳に浸す」方法が知られていますが、これは正しいのでしょうか。

宮本さん「『抜けた歯を牛乳に浸す』のは、昭和の時代に推奨された方法です。現在は、ドラッグストアで購入できる『コンタクトレンズ用生理食塩水』に浸すことで、最もリスクとなる歯の乾燥が防げ、歯根膜(歯の根元を覆う『靭帯(じんたい)』的部分)も悪くない状態を保てるので、家庭での一時的な保管方法として推奨しています。

当時はドラッグストアが身近ではなく、生理食塩水も知れ渡っていませんでした。そこで、ほとんどの家庭にあり、生理食塩水に成分が似ていて、費用が比較的かからないのが牛乳だったのです。『牛乳に浸す』というそのインパクトの強さから、今でも推奨される方法として言い伝えられているのでしょう。ちなみに、抜けた歯の保存と牛乳のカルシウムは全く関係がありません。

なお、基本的に、折れた歯を治療に利用することはなく、残った根の状態で治療方法が決まります。抜けた歯の場合は、再び元の位置に戻す『再植術』が第1選択になり、抜けてから治療までの間、よい状態で保存されると成功率が上がります。専用の保存液は市販(2500円程度、有効期限2年)しているので一般の人でも入手可能ですが、歯が抜けるのは突然のことですから、実際には保存液を用意できないことも多々あると思います。その際は先述のコンタクトレンズ用生理食塩水か、ミネラルウオーターを準備しましょう。両方ともない場合は、牛乳でも問題はありません」

Q.折れた歯、抜けた歯の保管で、やってはいけないNG行為はありますか。

宮本さん「抜けた歯が元の状態に戻せるかどうかは、『靭帯』次第です。そのためには『歯を乾燥させない』ことも大切なのですが、歯が抜けて栄養が断たれた靭帯は時間とともに衰弱するので、『30分以内』の再植術が大きなポイントになります。

案外やってしまいがちなNG行為は、歯の汚れを取ろうとして、歯の周りを拭いたりこすったりすることです。中には歯を消毒する人もいますが、これらは全て靭帯に悪影響を与えるので、やってはいけません。また、中には折れた歯を瞬間接着剤でくっつける人もいるのですが、その後の治療を困難にさせるので、やめてください」

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宮本日出(みやもと・ひずる)

歯科医師、歯学博士

1965年、金沢市生まれ。愛知学院大学歯学部を卒業後、石川県立中央病院、豪アデレード大学、明海大学を経て、2007年、埼玉県志木市で幸町歯科口腔外科医院を開業し、現在に至る。2015年から、埼玉医科大学麻酔科非常勤講師。2017年、立教大学大学院でMBA取得。金沢大学医学部で感染制御学を研究したこともあり、「えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防」(ギャラクシーブックス)など多数の臨床関連著書のほか、「サンタはなぜ配達料をとらないのか?」(VOICE)など仕事論の著作も執筆。

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