歯が欠けた! 放置するとどうなる? 歯科医師に聞いた
何らかの原因で歯が欠けてしまったとき、「すぐに歯科医院へ行けないから…」と放置してしまう人がいるようです。欠けた歯を放置するリスクについて、歯科医師が解説します。
硬い食べ物をかじったときや、転んで歯を何かにぶつけたときに突然、歯が欠けてしまうことがあります。そうした際、すぐに歯科医院に診てもらうケースが多いと思いますが、中には、「出血しなかったので、欠けたままにしていた」「痛みがなかったから、歯医者さんに行くのを忘れていた」と、欠けた部分をそのまま放置している人もいるようです。
歯が欠けたまま放置すると、どうなるのでしょうか。幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。
放置すると「虫歯になりやすい状態」に
Q.一般的に、「歯が欠ける」原因や理由として多いのはどういうものですか。
宮本さん「歯の表面は骨よりも硬い『エナメル質』に覆われており、その硬度は宝石のオパールよりも強く、通常は歯が欠けることはありません。しかし、歯に許容範囲を超える強い力が働いたり、歯の弱い方向(角度)に力がかかったりすると欠けてしまいます。つまり、歯が欠けるほとんどの原因は、歯の弱い方向への『外傷(ぶつけるなど)』と『かみ合わせ(硬い食べ物をかんだなど)』です。それぞれについて説明します」
【外傷】
外傷を受けやすいのは、上の前歯です。前歯を覆っているのは薄い唇だけですが、外傷を受けるときには驚いて唇を開いてしまい、前歯を直接ぶつけることが多いのです。正常なかみ合わせでは、上の前歯が下の前歯より前にあるので、圧倒的に上の前歯が外傷を受けやすいです。また、前歯を差し歯にしていると構造的に根が折れてしまい、歯を抜くしか方法がなくなることもあります。
【かみ合わせ】
かみ合わせの場合、奥歯が欠けることが多いです。氷のような硬いものをかんで、歯の表面の一部が欠けることもありますが、気付かない人も案外多くいます。奥歯は気になっても自分で確認しにくく、特に上の奥歯は見えないので、分からないことが多々あります。しばらくすると欠けた歯の状態に慣れてしまい、気になったことさえも忘れてしまい、結果として放っておく…ということもよくあります。
中には、歯ぎしりが癖になり、かむ力が異常に強くなって、上下の歯をかみしめることで歯が欠けたり、割れたりするケースもあります。かみ合わせなど、歯への負担の蓄積で歯に亀裂(ヒビ)が入っている歯は、表面がもろくなり、欠けやすい状態です。虫歯などの治療を受けた歯も欠けやすく、治療で削った量が大きければ大きいほど、欠けるリスクが高くなります。
Q.欠けたまま歯を放置すると、どうなることが考えられますか。
宮本さん「歯の表面のエナメル質だけが欠けた場合、痛みはないのですが、表面がザラザラするので虫歯菌がつきやすく、歯ブラシでも磨きにくくなり、虫歯になりやすい状態となります。また、エナメル質が欠けたことで歯が弱くなり、もっと大きな欠けにつながる可能性も出てきます。
エナメル質の下にある『象牙質』まで欠けてしまうと、虫歯菌に抵抗できず、容易に虫歯が始まります。歯が欠けると神経までの距離が近くなるので、すぐに進行性の虫歯になりやすく、神経を抜く治療が必要になってしまいます。また、歯の3分の1程度が欠けると神経が露出し、表面にさらされるのでズキズキと痛くなり、息をするだけでも痛みが増します」
Q.「出血しなかった」「痛みがなかった」「しみなかった」ことが放置につながっている例もあるようですが、これはなぜですか。
宮本さん「出血や痛みがない、しみないといった場合は、次の2つの可能性があります。一つは、欠けた量が小さくて歯のダメージが少なく、欠けた後でも通常の機能・感覚に問題がない場合です。このケースでは先述のように、自分でも歯が欠けた自覚がないので、おのずと放置状態になり、歯科健診時に初めて指摘を受けることもあります。
もう一つは、既に歯の神経を抜く治療を受けている場合ですが、これには危険な落とし穴があります。『症状がないから放っておいても大丈夫だろう』と自己判断をしてしまうと、神経治療した歯は歯が大きく深く削られているため、虫歯の進行が早く、すぐにボロボロの状態になります。歯が無感覚になっているので、自覚症状以上に状態が悪化しているのです。症状を感じたときには末期を過ぎていて、歯を抜くしか方法がない場合がとても多いので、注意が必要です」
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