歯が透明に…「酸蝕歯」を放置するとどうなる? 症状や治療・予防法、医師に聞く
自分の歯を鏡で見て、「歯の先端が透明になっている」と気付いた経験がある人はいませんか。この「酸蝕歯」という症状について、歯科医師に聞きました。

自分の歯を鏡で見たとき、「歯の先端が透明になっている」と気付いた経験がある人はいませんか。こうした歯の症状は「酸蝕(さんしょく)歯」と呼ばれ、悪化すれば最悪の場合、歯を失うことにもつながりかねないようです。ネット上では「よく見ると前歯がうっすらと透けている」「痛みがないから、長い間気付かなかった」「放置するとどうなるんだろう」など、さまざまな声が上がっています。
「酸蝕歯」に関するさまざまな疑問について、幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。
痛みなく、重症化後に気付くケースも

Q.「酸蝕歯」とは何でしょうか。
宮本さん「酸蝕歯とは、酸によって溶けた歯のことをいい、一連の症状を『酸蝕症』と呼びます。酸性が強いものを食べたり飲んだりすると、酸によって、歯の表面にあるエナメル質から、リン酸カルシウムの結晶が溶け出します(脱灰)。
これにより、『歯が透き通る』『歯が丸くなる』『しみやすくなる』などの症状が出ますが、痛みが出ることは少ないので放置され、重症化してから気付く人も少なくありません。以前は中高年以降の人に起こる疾患と考えられてきましたが、食生活の変化から、若い世代でも増えてきています。
酸性かアルカリ性かを示すpH値は中性が7で、それより数値が小さければ酸性、大きければアルカリ性です。口の中で唾液が十分に分泌されていると、唾液の作用で酸性のものを洗い流して中和し、6.5~7の弱酸性から中性に保っています。
しかし、酸性の飲食物ばかりを取ると、口の中が酸性になります。エナメル質はpH値5.5以下の酸性に弱いので脱灰を起こし、酸蝕歯になります。食生活が原因となる場合がほとんどですが、逆流性食道炎など胃酸が影響する場合もあります」
Q.虫歯や歯周病とはどう違うのですか。
宮本さん「虫歯と歯周病が細菌感染症による疾患であるのに対して、酸蝕歯は非感染性です。ただ、酸蝕歯と虫歯は歯に悪影響をもたらす点は共通しています。酸蝕歯の場合、口全体の歯にリスクがあるので早期発見が大切です。詳しくは表を見てください」
Q.酸蝕歯が進行すると、歯はどうなっていくのでしょうか。
宮本さん「酸蝕歯には、次のような『初期→中期→後期』の段階があります」
【初期】
歯の表面が溶けることで本来の輝きが少なくなり、歯がくすんだようになります。歯茎に沿った歯の部分では象牙質の黄色が透けやすくなり、全体的に歯の根元が黄色みを帯びてきます。また、歯のかみ合わせ面のエナメル質が溶けると溝が深くなったり、歯の辺縁が角張って、とがった形になったりします。
ただ、これらはエナメル質の微細な変化なので、この段階では自分で見つけることがとても難しいです。歯科医院の受診時に尋ねるとよいでしょう。
【中期】
歯全体のエナメル質が溶けて薄くなると、象牙質の黄色が見えやすくなり、歯の色が全体的に黄ばんで見える他、もともと、歯の厚さが薄い歯の先端ではエナメル質が薄くなって、透けて見えるようになります。また、エナメル質には歯を保護する役割もあるため、薄くなると刺激が象牙質に届きやすくなり、知覚過敏が出るようになります。
このように、初期より変化が大きくなるものの、酸蝕歯はゆっくり進行するため、この段階でも気付く人は少ないです。加齢によるものと思い込む人も少なくありません。
【後期】
歯の先端が丸くなったり、歯の形が変わって、詰め物・かぶせ物が合わなくなり、取れてしまったりします。また、歯ぎしりなどで力がかかり、かみ合わせ面にクレーター状の穴が開くこともあります。
少なくとも、この段階で対策を講じないと歯が弱くなり、虫歯にかかりやすい状態となってしまいます。弱くなった歯は自分のかむ力にすら耐えられずに割れてしまうこともあり、最悪の場合は歯を失うこともあります。
コメント