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毎食後に歯磨きをしても“虫歯”になる…なぜ? 原因&対策を歯科医師に聞く

虫歯ができるメカニズムのほか、虫歯を予防する対処法について、歯科医師に聞きました。

虫歯ができる原因は?
虫歯ができる原因は?

 虫歯を予防する取り組みとして、毎食後の歯磨きが推奨されています。ただ、中には日頃からしっかり歯を磨いているにもかかわらず、虫歯になってしまう人がいます。

 そもそも、なぜ虫歯ができるのでしょうか。虫歯を防ぐには、歯磨き以外にどのような対策が求められるのでしょうか。幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。

間食のダラダラ食いで虫歯リスク増

Q.虫歯ができるメカニズムについて、教えてください。

宮本さん「『歯に穴が開いたら虫歯になった』と判断する人は少なくないでしょう。しかし、初期の虫歯はもっと早い段階から始まっていて、歯の表面(エナメル質)からカルシウムが溶け出したら虫歯と診断されます。

これはエナメル質の表面が荒れて白濁している状態ですが、歯科医院で専門の器具で歯の表面に付いている『バイオフィルム』と呼ばれる菌膜を除去後、歯の表面をしっかりと乾燥させて、診療用ライトを当てながら観察しないと診断できないため、一般の人が見分けるのは難しいでしょう。

虫歯ができるメカニズムには『糖質(砂糖)』『虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)』『歯質(エナメル質、象牙質の硬さ)』が関係しています。この3要因が重なると虫歯が発生します。

虫歯ができるイメージとして、『虫歯菌がヤリやツルハシで歯を攻撃している』という内容の画像が示されることがありますが、それは違います。歯にダメージを与えるのは虫歯菌が出す排せつ物なのです。虫歯の発生メカニズムは次の通りです」

【虫歯が発生するメカニズム】
(1)口の中に常在する「S.ミュータンス」と呼ばれる虫歯菌が、栄養源となる糖質(砂糖=ショ糖)を取り込んだ後、歯垢(プラーク=菌の塊)となり歯の表面に付く。

(2)歯垢の中でS.ミュータンスが増殖しながら糖質を取り込み、排せつ物として酸を出す。

(3)歯は酸に弱いため、歯質にため込んでおいたカルシウムやリンが溶け出し(脱灰)、表面がもろくなる。

(4)表面がもろくなる時間が長くなり範囲が広がると、歯に穴が開く。この場合、元の状態に戻すことはできず、歯科医院で穴を埋める治療が必要になる。

S.ミュータンスは、単体では歯の表面への接着力は強くないのですが、糖質から栄養をもらうと悪性度が高まり、歯に強く接着します。エナメル質を攻撃する菌はS.ミュータンスですが、歯に穴が開くと、その内部にはビフィズス菌やラクトバチラス菌など、他の虫歯菌が繁殖して虫歯の進行を早めます。

Q.虫歯のできやすさに個人差があるのは、なぜなのでしょうか。

宮本さん「口の中には約700種類の菌がいますが、その種類は人によって異なり、虫歯菌が多い人もいるからです。一度、口の中に定着した菌を除去することはできず、一生にわたり、住み着いた菌と共存することになります。そのため、虫歯菌が多い人は虫歯になりやすいと言えます。

小まめに歯磨きやうがいで虫歯菌の数を減らすとともに、定期的に歯科医院で、歯にこびり付いた菌膜(バイオフィルム)を除去してもらうことが必要になります。

先述のように、S.ミュータンスが出す酸によって歯からカルシウムやリンが溶け出すのですが、歯に不利な酸性の状態から、歯に有利な状態の中性に戻してくれるのが唾液です。ですから、唾液の分泌量が少ない人や唾液の中の中和作用(緩衝能)が弱い人は、虫歯になりやすいです。

また、歯の表面がきれいな人でも容易に酸に負けて虫歯になりやすいのですが、歯質はフッ化物で強くすることができます。歯磨き粉はフッ化物が配合されたものを使用し、歯磨き後にはフッ化物のうがい薬でうがいをしてください。続けることで、虫歯予防の効果がしっかり出ます。

自分の口の状態を調べるには唾液検査がお勧めです。唾液を調べるだけで『虫歯菌の多さ』『酸性度(歯の置かれている状態)』『緩衝能(唾液の中和作用)』の虫歯リスクを知ることができます。併せて、歯周病リスクや口臭リスクも調べることができるため、簡単に自分のリスクチェックができます。保険診療の適応外なので自費診療になりますが、一般的な費用は1500~3000円です。

『出産でカルシウムがなくなり歯がボロボロになった』という女性がいらっしゃいますが、歯が生えた後に歯の中のカルシウムが体内に流出することはありません。妊娠期の不規則な生活が原因で虫歯になったと考えられます」

Q.では、虫歯ができるのは、歯磨きが不十分なことだけが原因ではないということでしょうか。

宮本さん「『虫歯予防には歯磨き』と考えている人が多いと思いますが、実は食生活の方が歯に与える影響が大きいのです。虫歯を予防するには、食生活を見直すのも重要です。

先述のように、歯は酸性の状態になると溶け出しますが、飲食物のほとんどは酸性の性質を持っており、食べたり飲んだりすると、口の中は酸性の状態になります。その際、唾液が中和してくれるのですが、中和するまでに数時間かかるため、間食をダラダラと続けていると、酸性の状態が続き、虫歯になってしまいます。

虫歯対策を考えると、間食のダラダラ食いを避け、時間を決めて摂取する方が良いです。つまり、間食の量が問題なのではなく、間食している時間が歯に影響を与えます。ただし、間食を短時間で一気に食べると喉に詰まらせたり、十分にかめなかったりする可能性があるため、やめてください。

また酸性の飲食物を好む人も、口の中が強酸性状態になる機会が多いため、虫歯になりやすいです。例えば、オレンジやグレープフルーツといったかんきつ系をはじめ、果物は、酸性度が強いです。また酢や梅干しなど、酸っぱい物も酸性度が強い傾向にあります。

反対に肉や魚、チーズ類は酸性度が低いため、比較的虫歯になる危険度は低くなります。飲み物ではコーラのような炭酸飲料やスポーツ飲料は酸性度が強く、かつ虫歯菌の栄養源となるショ糖を多く含んでいるため、避けた方が良いでしょう。牛乳や豆乳、水などは虫歯リスクが低いです」

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宮本日出(みやもと・ひずる)

歯科医師、歯学博士

1965年、金沢市生まれ。愛知学院大学歯学部を卒業後、石川県立中央病院、豪アデレード大学、明海大学を経て、2007年、埼玉県志木市で幸町歯科口腔外科医院を開業し、現在に至る。2015年から、埼玉医科大学麻酔科非常勤講師。2017年、立教大学大学院でMBA取得。金沢大学医学部で感染制御学を研究したこともあり、「えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防」(ギャラクシーブックス)など多数の臨床関連著書のほか、「サンタはなぜ配達料をとらないのか?」(VOICE)など仕事論の著作も執筆。

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