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虫歯や歯周病への影響は? 喫煙と「お口のトラブル」の関係、歯科医師に聞く

喫煙には、さまざまな健康リスクがあることが知られていますが「お口のトラブル」もリスクの一つです。虫歯や歯周病のリスクにどう影響するのでしょうか。

喫煙は歯にどう影響?
喫煙は歯にどう影響?

 がんや循環器疾患など、喫煙にはさまざまな健康リスクがあることが知られていますが、特に身近なリスクの一つに「お口のトラブル」があります。ネット上では「たばこを吸い始めてから虫歯が増えた」「歯周病を指摘されて、禁煙をしようか悩んでいる」「着色汚れが気になる」といった経験者の声をはじめ、「喫煙を続けることで歯を失う可能性もあるのかな」「たばこをやめたら、すぐに歯周病リスクは減る?」など、疑問の声も多くあります。

 喫煙がもたらす虫歯や歯周病のリスクについて、幸町歯科口腔外科医院(埼玉県志木市)院長で歯科医師の宮本日出さんに聞きました。

歯周病リスク4.9倍との研究も

Q.喫煙によって、歯周病や虫歯などの「お口のトラブル」のリスクが上がるのは事実でしょうか。

宮本さん「事実です。喫煙によって、唾液の分泌量が抑制されると、口の中が乾燥しやすくなります。すると、唾液による殺菌効果や抗菌作用が弱まり、細菌が繁殖しやすい状態になります。虫歯も歯周病も細菌が原因なのでリスクが上がるのです。いわゆる『ヤニ』には油成分が含まれており、これが歯面に付着すると細菌の温床となるため、やはり、リスクが上がります。

また、たばこに含まれるニコチンは毛細血管を萎縮させ、血液量の減少を引き起こします。結果として、歯周病の症状である歯肉出血を見つけづらくなるので、見た目より歯周病が進行するまで発見されないことも少なくありません。さらに、ニコチンは細胞の増殖も抑制するため、歯肉が弾力のない硬い組織になり、抵抗力が落ちて、歯周病が進行しやすい状態になります」

Q.喫煙者と非喫煙者を比較したとき、歯周病や虫歯のリスクにはどのくらいの差や違いがあるのでしょうか。

宮本さん「虫歯は虫歯菌、歯質、食事など多くの因子が関連しているので、喫煙の直接の影響の割合は歯周病より少なく、喫煙の虫歯に対する影響の研究報告は散見されるのみです。他方、歯周病に関しては、最も悪い影響を与える習慣が喫煙で、6カ国21研究の中で95%にあたる20研究が『悪影響を及ぼす』と結論づけています。

日本でも、非喫煙者と比較して、喫煙者の発症リスクは4.9倍、受動喫煙者でも2.9倍との研究結果が出ています」

Q.歯周病について、喫煙者と非喫煙者とでは、症状や進行スピード、治癒までにかかる時間などに何らかの違いはみられるのでしょうか。

宮本さん「主な影響は次の通りです」

【歯肉出血】

歯周病の初期症状であり、患者さんが自身で分かる唯一の症状かもしれません。しかし、先述の通り、喫煙によってこの症状が分かりにくくなるため、症状の発見が遅れ、歯周病を進行させる原因となり得ます。通常、非喫煙者では経時的に増加する細菌量と比例して出血が増えますが、喫煙者の場合は細菌量が増加しても出血は増えません。

【歯石除去】

歯石除去は歯周病治療の中で最も基本的、かつ大切な治療です。軽症の場合はこの治療だけで改善します。非喫煙者の歯石除去による効果を100とすると、喫煙者では約60に低下します(歯石除去効果が40%低下)。

【歯周手術】

歯石除去を中心とした1次治療を行っても改善しない場合は、歯周手術を行います。いわば、歯周治療の最終手段です。非喫煙者の歯周手術の効果を100とすると、喫煙者では約40に低下します。非喫煙者では抜歯せずに守れる歯も、喫煙者の場合は効果が6割減なので、歯を失う可能性がかなり高くなるということです。

【メンテナンス治療】

歯周病菌は「口腔内常在菌」といい、口の中からいなくなることはありません。つまり、原因をなくすことが不可能なので、しっかりメンテナンス治療を行わないと、すぐに歯周病が再発してしまいます。非喫煙者のメンテナンス治療の効果を100とすると、喫煙者では約50です。喫煙者に「メンテナンスしているから安心」はありません。

Q.喫煙者の歯周病リスクは、禁煙を開始するとすぐに減少するのでしょうか。それとも、禁煙開始後、一定の時間を要するのでしょうか。

宮本さん「日本歯周病学会の見解では、歯周病がない場合、禁煙後2週間で歯茎の状態が非喫煙者と同等レベルに回復するとしています。しかし、歯周病を発症していると、1〜1.5カ月の禁煙では回復がみられず、少なくとも6カ月以上の禁煙をしないと喫煙の影響からは抜け出せないとされています。そして、喫煙の蓄積効果のリスクが禁煙によって、非喫煙者レベルまで減少するには5〜10年が必要です。

歯周病が発症する年齢、通常、40歳を超えてからですが、早いと30代で発症する人もいます。歯周病はギネス世界記録で『世界で最も患者が多い病気』と認定されるほど罹患(りかん)率が高い上、さらには認知症やがん、糖尿病など、全身のさまざまな病気に影響を与えます。これらを考慮すると、喫煙者の人は20代半ば、遅くとも30歳までには禁煙することを決断した方が賢明でしょう」

Q.ちなみに、歯科医師は患者さんの口内や歯の状態を見たとき、「喫煙者か非喫煙者か」はすぐに分かるものなのでしょうか。

宮本さん「分かります。日本歯周病学会に掲載されている論文では、次の5点を喫煙者の特徴としていますが、まず、喫煙者は唇が赤くなく、紫色になっているのが特徴で、口の中を見るまでもなくすぐに見分けられます。これは歯茎の色も同様で、赤みが消えて暗紫色になっています」

・歯の表面の着色
・歯茎の色が部分的に茶色くなる(メラニン色素沈着)
・歯茎の縁(歯との境目の部分)が厚くなる(線維性肥厚)
・同年代と比較して歯周病の進行が早い
・歯周病が進行している割には症状(歯ぐきの腫れ・赤み)

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宮本日出(みやもと・ひずる)

歯科医師、歯学博士

1965年、金沢市生まれ。愛知学院大学歯学部を卒業後、石川県立中央病院、豪アデレード大学、明海大学を経て、2007年、埼玉県志木市で幸町歯科口腔外科医院を開業し、現在に至る。2015年から、埼玉医科大学麻酔科非常勤講師。2017年、立教大学大学院でMBA取得。金沢大学医学部で感染制御学を研究したこともあり、「えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防」(ギャラクシーブックス)など多数の臨床関連著書のほか、「サンタはなぜ配達料をとらないのか?」(VOICE)など仕事論の著作も執筆。

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