「大人が縫いぐるみと一緒に寝る」のが、おかしなことではないワケ
「大人が縫いぐるみと一緒に寝る」と聞くと、ネガティブに捉えがちですが、縫いぐるみと一緒に寝る大人は一定数いるそうです。なぜ、縫いぐるみと寝るのでしょうか。

幼い子どもが縫いぐるみと一緒に寝ることは珍しくありません。しかし、大人になっても「縫いぐるみと一緒に寝ると落ち着く」いう人は、男女に関係なく一定数存在するようです。個々の背景が分からない場合には、こうした人をネガティブに捉えがちですが、なぜ、縫いぐるみと一緒に寝る大人がいるのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。
ネガティブに捉えるのは正しくない
Q.なぜ、縫いぐるみと一緒に寝る大人がいるのでしょうか。一緒に寝ることは、精神的に見てどのような意味があるのでしょうか。
田中さん「縫いぐるみと一緒に寝る子どもの頃からの習慣が、大人になっても続いている人もいますし、大人になって1人暮らしを始めるなどの大きな環境変化の中で、縫いぐるみと一緒に寝るようになる人もいます。
いずれの場合であっても、縫いぐるみと一緒に寝ることにより、夜に暗くなってから1人で寝ることの不安を解消する意味があります。子どもが母親に添い寝してもらって眠るのと同じで、大人も縫いぐるみを抱くことで、安心して睡眠に入ることができるのです。
心理学的には、こうした母親代わりの役目を果たすものを『移行対象』と呼び、子どもが自立して大人になるために必要なアイテムとしてその存在を重視しています」
Q.どのような大人が、縫いぐるみと一緒に寝たいと思うのでしょうか。
田中さん「縫いぐるみと一緒に寝たいと思う大人は、まだ自立できていない未熟な人だと、よく誤解されることがあります。しかし、それは正しくありません。
人間は誰でも大きな環境変化の中で不安が高まり、他人の助けが欲しくてもそれが得られなかったり、そもそも、自分が助けてもらってもいい状態にあること自体に気付けなかったりすることがあります。
そうしたことが積み重なり、どうにもならない孤独感にさいなまれ、縫いぐるみを抱いて寝たいと思うのです」
Q.不安感の解消や安心感を得るためとのことですが、具体的に、縫いぐるみと一緒に寝ることに、どのような効果がありますか。
田中さん「サンプル数が少ない研究ではありますが、ペットはもちろん、縫いぐるみを抱きしめることによって、脳内で『オキシトシン』という愛情ホルモンの働きが高まる可能性があることが示されました。分かりやすく言うと、縫いぐるみを抱いて寝ることには癒やし効果があるということです」
Q.「縫いぐるみ療法(縫いぐるみセラピー)」と呼ばれるものを聞いたことがあります。どのような治療法なのでしょうか。
田中さん「実は、『縫いぐるみ療法(縫いぐるみセラピー)』は、医学的に有効性が確認された治療法ではありません。民間療法として扱われています。
しかし、先述したように、効果の可能性を指摘する研究もあります。単身者や高齢者、子ども時代に虐待やいじめ被害などを受けて育ってきた人、とても過酷な労働環境で働いている人などは、癒やし効果を求めて縫いぐるみを抱いて寝てみるとよいかもしれません。
一般に、治療には効果とともに副作用がありますが、縫いぐるみ療法の場合、副作用はほとんどないと考えられます。布団に入る際、安心感を得たいという人にはお勧めです」
Q.世の中では、「大人が縫いぐるみと接している」こと自体を、ネガティブに捉えがちです。大人が縫いぐるみと一緒にいる効果が、さらに世の中に理解されれば、こうしたネガティブな考えは変わりそうでしょうか。
田中さん「大人が縫いぐるみと接していることに、ネガティブなイメージを持つ必要はありません。誰でも環境が大きく変わり、他人に相談できずに孤独に陥ることがあります。そうしたとき、縫いぐるみと一緒にいることで孤独を解消できれば、それはそれでよいことだと思います。
また、縫いぐるみに話しかけるだけでなく、縫いぐるみに自分を投影して話し掛けに対して応答する対話形式により、人間関係のストレスを癒やせれば、それもそれでよいことだと思います。副作用はほとんどないので、必要に応じて試す価値があるでしょう」
(オトナンサー編集部)
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