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「ウクライナ人を助けたい」 日本人義勇兵は、本当に罪に問われるのか?

ロシアのウクライナ侵攻で、ウクライナ義勇兵に日本人が参加すると罪に問われるとされています。実際に参加した日本人がいるとの報道がありましたが、本当に罪に問われるのでしょうか。

ウクライナ義勇兵に参加すると、罪に問われる?
ウクライナ義勇兵に参加すると、罪に問われる?

ロシアのウクライナ侵攻後、多数の民間人に被害が出ていることを報道で見て、義憤に駆られた日本人が義勇兵に参加しているとの報道が、先日ありました。日本人が義勇兵の募集に応じた場合、「私戦予備および陰謀罪」(刑法93条)という犯罪に当たる可能性もあるとされていますが、法律家の中でもさまざまな見解があるようです。とはいえ、この罪に問われた日本人がいるという話を聞いたことがありません。義勇兵に参加した日本人は、本当に「私戦予備および陰謀罪」に問われてしまうのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

不起訴や執行猶予の可能性も

Q.「私戦予備および陰謀罪」とは、具体的にどのようなとき問われる罪で、どのような刑罰となるのですか。

佐藤さん「『私戦予備および陰謀罪』は、『国交に関する罪』として、刑法93条で定められています。『外国に対して、私的に戦闘行為をする目的で、その予備または陰謀をした』際、罪に問われる可能性があり、法定刑は『3月以上5年以下の禁錮』です。ただし、私戦を未然に防ぐため自首すれば、刑が必ず免除されることになっています。

『私的に戦闘行為をする』とは、国家の意思によらずに組織的に武力行使(武力による攻撃・防御)を行うことをいいます。また、『予備』とは、私的な戦闘行為を実行する目的で、その準備をすることであり、例えば、兵器の調達や兵士の訓練などが該当します。『陰謀』とは、複数の者が私的な戦闘行為の実行を目指して計画し、合意に達することです。

刑法93条は『予備』や『陰謀』のみを犯罪と定め、実際に私的な戦闘行為が行われた場合について定めていません。実際に私的に戦闘行為に加担した場合は、殺人罪や放火罪などで裁かれることになるでしょう」

Q.なぜ、「私戦予備および陰謀罪」が制定されたのですか。

佐藤さん「国家の意思によらずに、個人が外国に対して私的に戦闘する事態になれば、日本の国際的な立場が危うくなり、国際社会の平和も害されるからです。もともとは、1880年に制定された旧刑法の『外患ニ関スル罪』の条文で、交戦権が認められた国家以外による外国との私的な戦闘を禁止したことが始まりだとされています。幕末期、薩摩藩や長州藩が外国に戦争を仕掛けた歴史があり、そうしたケースが想定されていたそうです」

Q.これまでに、「私戦予備および陰謀罪」に問われた日本人はいるのですか。

佐藤さん「過激派組織『イスラム国(IS)』に戦闘員として参加するため、シリアへ渡航する準備をしたとして、当時、北海道大生だった男性など5人が、2019年に書類送検されました。警視庁公安部は、送検の際、起訴を求める厳重処分の意見を付けていましたが、その後、全員が不起訴になっています。私戦予備罪が適用されたのは、この事案が初めてです。それ以降、適用された例はありません」

Q.ウクライナの義勇兵に参加したことで、「私戦予備および陰謀罪」に問えるかどうかに法律家でもさまざまな見解があるとのことですが、それはなぜですか。

佐藤さん「ウクライナの義勇兵に参加することが、刑法の定める『私的に戦闘行為をする』に該当するかどうか、見解が分かれているからでしょう。『イスラム国(IS)』の戦闘員として、外国を標的にテロ行為をしようとする場合と異なり、今回は、ウクライナとロシアという主権国家間の戦闘行為に参加することが問題となっています。このような場合には、『私的に戦闘行為をする』に当たらないと考える立場もあります。

しかし、既にある主権国家間の戦闘行為に参加する場合であっても、日本の意思によらずに参加すれば、日本の国際的な立場が危うくなる可能性がある以上、処罰対象であると考える立場もあります。先述したように、先例がほぼないこともあり、まだ解釈が確定していないといえるでしょう」

Q.今回、義勇兵に参加した日本人は、帰国後に「私戦予備および陰謀罪」に問われると思われますか。思われませんか。

佐藤さん「条文の趣旨を踏まえると、義勇兵に応募したことをもって、『私戦予備および陰謀罪』が適用される可能性はあり得ると思います。また、実際に戦闘行為に加わり、日本国外で人を殺してしまったような場合、殺人罪などが適用される可能性もあります。

ウクライナの人々を助けたいという一心で起こした行動であり、日本人個人のこうした行動を犯罪として罰することには慎重になるべきとも思えますが、主権国家間の戦闘行為に日本国民が個人的に参加すれば、相手国が日本に敵意を抱くようになったり、日本が外交を行う上で問題が生じたりする危険があります。そのことは、心に留めておく必要があるでしょう」

Q.仮に逮捕された場合、不起訴や執行猶予になる可能性はありそうでしょうか。

佐藤さん「ISに戦闘員として参加しようとした2019年のケースのように、不起訴になる可能性は十分あるでしょう。また、仮に刑事裁判にかけられ有罪となった場合でも、執行猶予が付く可能性はあります」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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