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子どもの「歯列矯正」、いつから? メリット/デメリットを歯科医師に聞く

わが子の歯並びを気にする親は少なくありません。子どもの歯列矯正治療はいつから始めるのがよいのか、そもそも歯列矯正をさせるべきなのか…歯科医師が解説します。

子どもの歯列矯正、させる? させない?
子どもの歯列矯正、させる? させない?

「歯並び」は、見た目はもちろんのこと、歯の磨きやすさにも影響します。わが子の歯並びを気にして、早い段階から歯列矯正治療を検討する親も多くいますが、子どもの年齢によっては永久歯への生え変わりのタイミングと重なるケースも多く、「いつから始めるのがいいのか分からない」「スタートしない方がいい時期はある?」と開始時期について悩む人や、「そもそも、子どもに歯列矯正をさせるべきか迷う」「子どもの時期に矯正するメリットは何?」などの疑問を持つ人が少なくないようです。

「子どもの歯列矯正」に関するさまざまな疑問について、吉祥寺まさむねデンタルクリニック理事で歯科医師の園田茉莉子さんに聞きました。

効果的なのは「後天的な歯列不正」

Q.子どもの歯列矯正について、基本的な期間や費用を教えてください。

園田さん「まず“子ども”の定義付けですが、歯科に限っていえば『乳歯が抜けて全部永久歯になったら、口の中は大人』というのが一般的です。従って、歯科における子どもの矯正は主に、乳歯のみ、または乳歯と永久歯が混在する時期の矯正を指すことが多く、年齢でいうと小学生までです。

治療期間としては、中学生になる直前の一時期のものから、小学生の間ずっと行うものまで幅があります。費用は、大人の矯正よりは安価に設定されていることが多いです。効果に関しては、歯科医の中でも『早期治療をする方がよい』という意見と、『永久歯に全て生え替わってからの方がよい』とする意見に分かれています」

Q.子どもの歯列矯正の特徴とは。

園田さん「歯並びを悪くする要因には、後天的(機能的)要素と、先天的(遺伝的)要素があります。子どもの矯正が効果的なのは、後天的要素による歯列不正です。

お子さんの口の状態を見たとき、呼吸やそしゃく、嚥下(えんげ)、口周辺の筋肉に異常がある場合、これらが原因で歯並びやかみ合わせが悪くなります。こうした悪い要素を積極的に改善することで、歯並びやかみ合わせを改善していくのが子どもの矯正の特徴です」

Q.子どもの歯列矯正を始めるのに、最も適した時期はいつでしょうか。

園田さん「小学校低学年の時期がよいと思います。主に取り外し式の装置を使うことが多いので、あまり低年齢だと治療の意義が理解できなかったり、指導がうまくいかなかったりする場合があります。

また、6歳ごろから永久歯への生え変わりが始まりますが、多くの保護者はこの時期に初めて“歯並びが悪くなる”ことを認識します。つまり、お子さんとコミュニケーションがしっかりと取れ、保護者にも問題意識が芽生える小学校低学年が最適といえるのです」

Q.一方で、開始に適さない時期もあるのでしょうか。

園田さん「小学校高学年の頃は乳歯の奥歯が生え替わる時期なので、あまり矯正には適さないと思います。この時期は乳歯から永久歯への最終的な移行期間で、口の中の環境が目まぐるしく変化します。そのため、矯正装置を入れておくのが困難になることが多いのです。

また、永久歯に置き換わるまでの時間があまり残されていないので、装置の効果が十分には発揮されません。そのため、小学校高学年でスタートするのであれば、全て永久歯に置き換わるのを待って、『成人矯正』として治療を行う方が効率的でしょう」

Q.子どもの時期に行う歯列矯正のメリット/デメリットは何でしょうか。

園田さん「まずメリットとしては、早期に治療に着手することで成長・発育をよい方向に誘導し、よい歯並びとかみ合わせを獲得できることです。口周辺の悪い要素を早期に取り除くことで、歯並びの改善につなげられるのが最大のメリットです。

一方でデメリットは、対象となるお子さんの歯列不正が先天的要素によるものであれば、いくら早期治療を行ったとしても改善が認められない場合がある点です。この場合はむしろ、18歳以降に行う手術によって改善する方が適切なこともあります。

従って、機能的な問題であれば早期治療、遺伝的要素によるものであれば成人矯正が適しているといえます。これらの判断には、担当する歯科医師の診断力が関わってきますが、機能的要素と遺伝的要素が混在している人も多く、診断が極めて困難な場合もあります」

Q.歯科医師は子どもの歯のどのような点を見て、矯正を勧めることが多いのでしょうか。

園田さん「歯科医が直接的に矯正治療を勧めることは、あまりないかもしれません。歯並びやかみ合わせが“完璧”である必要性を、われわれが感じることはあまりないためです。多少歯並びがガタガタしていても、きちんと食事が取れて本人が気にしていなければ、それはその人の個性ともいえます。

また、矯正治療に限りませんが、治療を行うことは多かれ少なかれリスクを伴いますし、100パーセント成功するとは言い切れません。従って、特に希望されていない患者さんに、無理に矯正治療を勧めることはありません。

一方で、歯科医は患者さんに『お口の健康』に関して正しい情報提供を行っていく義務があります。そのため、お子さんの成長段階に応じて、『このままだと歯がきれいに並びません』『矯正治療をお考えなら今の時期が最適です』といったアドバイスは行うようにしています」

Q.子どもに歯列矯正をさせるべきか迷ったとき、親はどのような要素で判断するのがよいと思われますか。

園田さん「矯正治療は虫歯や歯周病の治療とは異なり、緊急性を持って一刻も早くやらなければならないという性質のものではありません。もちろん、子どもの矯正には最適な時期がありますが、そもそも早期治療がよいのか、成人矯正の方がよいのかは歯科医によって判断が分かれます。時間的余裕があるのであれば、いくつかの歯科医の意見をセカンドオピニオンという形で聞くのも一つです。

矯正治療は歯科医師が行う治療の中でも、さまざまな診断基準や治療法が存在し、歯科医師間で最も判断の分かれる治療です。また、一度治療をスタートしたら数年のお付き合いになります。そのため、迷ったときはご自身でも情報収集した上で、最も信頼できる先生の下で治療を受けるのがよいでしょう」

Q.ちなみに、近年の子どもの歯列矯正に関する傾向は。

園田さん「子どもの矯正治療はワイヤを主体とした成人の治療と異なり、取り外し式の装置が一般的です。加えて、口のトレーニングを併用することが多いですが、これは、歯科医が『機能が形態をつくり、形態が機能をつくる』と考えているからです。口周辺の何らかの悪い癖によって歯並びが悪くなると、正常な呼吸やそしゃく、嚥下の妨げにもなります」

(オトナンサー編集部)

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園田茉莉子(そのだ・まりこ)

歯科医・医療法人社団正美会 吉祥寺まさむねデンタルクリニック理事

日本大学歯学部卒業。日本大学歯学部歯科病院で研修後、口腔外科を経て2012年4月より現職。クリニックでは、外来診療(一般歯科診療・口腔外科・インプラント・矯正)および訪問歯科診療を行っている。訪問診療は9年の経験あり。吉祥寺まさむねデンタルクリニック(http://kichijoji-masamune.com/)。

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