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「不妊治療」のいま 検査から治療、かかる費用まで

女性が受ける不妊検査

 女性の不妊検査は月経の周期に合わせて行われるため、1~3カ月間、複数回にわたります。最低でも、周期が1周する1カ月はかかると考えてください。

 問診から始まり、以降は「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」と周期ごとに数種類の基本検査を行います。

<基本検査>

月経期

ホルモン検査

 月経期には卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、プロラクチンホルモンの検査を行います。

・卵胞刺激ホルモン(FSH): 卵巣に作用し卵胞の成熟を働きかける。基準値は5~8mIU/ml。

・黄体化ホルモン(LH): 排卵直前に大きく上昇するLHサージにより排卵を誘発し、排卵後は黄体の形成を促す。基準値は2~5miu/ml LHサージ40~60mIU/ml。

プロラクチン:出産後に大量に分泌されるホルモンで「乳汁分泌ホルモン」とも言われる。男女ともに正常でも少量分泌されるが、多すぎると生理周期を乱すなど不妊につながる。基準値は35ng/ml以下。


 卵胞期

ホルモン検査

 発育してきた卵胞から分泌されるエストロゲン(卵胞ホルモン)の検査。エストロゲンは、卵胞期に子宮内膜を厚くし、排卵前には子宮頸管粘液量を増加させます。基準値は排卵前200~250pg/ml以上。

超音波検査

 腟内にプローブと呼ばれる器具を挿入し、そこから出る超音波を画像として処理し、子宮や卵巣の状態を把握します。卵胞の発育、子宮内膜の厚さがわかるほか、卵巣のう腫や子宮筋腫などの病気がないかも調べます。超音波検査は、月経期や排卵期、黄体期などにも、子宮・卵巣の状態を把握するために行われます。基準値は卵胞径(大きさ)16mm(※月経10日目前後の目安)。

子宮卵管造影検査

 子宮口から造影剤を投入し、レントゲンなどによって卵管の通りを調べる検査です。精子・卵子の通り道である卵管に癒着などの障壁がないかを調べます。この検査をすることによって詰まりが解消され、妊娠につながるケースもあります。


排卵期

頸管粘液検査

 精子を子宮内にスムーズに取り込む働きを持つ頸管粘液の状態を調べます。針のない注射器で採取し、分泌の具合と働きをチェックします。

フーナーテスト

 セックスをしておおむね12時間以内に、子宮の入り口の粘液(子宮頚管粘液)を採取し、その粘液の中での精子の数、運動性を調べる検査です。この検査が不良な場合、男性の精子の数や運動性に問題があったり、女性の側には子宮頚管粘液不全(子宮頚管粘液の量が少ないなど状態が悪い)、抗精子抗体(精子を異物と見なして攻撃する抗体)がある、などの原因も考えられます。

 このほか、卵胞期にはセックスのタイミングを推定するために、LHサージの有無を確認する黄体ホルモン検査や、卵胞の発育・排卵の有無を確認する超音波検査を行うことがあります。


 黄体期

ホルモン検査

 プロゲステロン(黄体ホルモン)の検査を行います。プロゲステロンは排卵後に分泌されるホルモンで、子宮内膜の発育を促して胚を着床しやすくしたり、妊娠を維持したりする働きをします。このホルモンによって基礎体温は上昇します。基準値は10pg/ml以上(※月経19~24日の目安)。

 このほか、黄体期には、卵胞期に行うエストロゲン検査と超音波検査を行うことがあります。


 周期に関係なくできる検査

AMH検査

 AMHは抗ミュラー管ホルモンのことで、検査は卵巣内に残されている卵子の数を推定するために実施します。この数値が低ければ、例え若年であっても卵巣内に残されている卵子が少ないため、人より閉経が早くなってしまう可能性があるなど、治療を急ぐべきだとされています。採血によって行われます。

感染症検査

 HBs抗原、HCV抗体、梅毒、クラミジア、HIV、風疹ウイルス抗体、トキソプラズマ抗体など、不妊、または妊娠した際に母子に影響を及ぼす可能性のある感染症をあらかじめ調べます。

甲状腺機能検査

 甲状腺ホルモンはバランスが崩れると妊娠に良くない影響を及ぼします。そのため、機能亢進(こうしん)あるいは低下がないかを調べることがあります。

着床不全・不育症の1次スクリーニング

 着床の過程全般にわたって調べる検査。抗リン脂質抗体、抗核抗体、抗精子抗体、甲状腺機能、凝固検査に加えて、内分泌異常や子宮内の状態などを再度調査します。

染色体検査

 何度も流産を繰り返す人について、不育症としての治療が必要かどうかを調べるために行う検査です。基準値は46XX。これ以外の不育症関連の検査には、プロテインC・S活性、凝固第12因子、抗リン脂質抗体検査などがあります。

CA125

 子宮内膜症の指標となります。子宮内膜症のほか、卵巣のう腫や卵巣がんがある場合、高値となります。基準値は35u/ml以下。

TRHテスト

 TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)はプロラクチンの放出を促すホルモンです。この検査では、潜在性高プロラクチン血症の可能性がわかります。そのほか、子宮筋腫や卵巣のう腫が疑われる場合などにはMRI検査で詳しく見ることもあります。

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内田玄祥(うちだ・げんしょう)

医療法人幸のめばえ、静岡レディースクリニック、三島レディースクリニック理事長

国立病院東京災害医療センター・国立病院東京医療センターにて産婦人科等に勤務の後、旧厚生省入省。医政局、健康局、社会・援護局等で病院経営管理、救急医療政策、障害保健福祉、医療安全等の政策立案を担当した後、山梨県健康増進課長として地域の感染症対策、がん・生活習慣病対策や母子保健政策・不妊症対策の充実にも従事する。夫婦で不妊症治療を経験したことから、官僚としてではなく医師として現場で不妊医療に寄与していくことが重要と考え、厚生労働省近畿厚生局医事課長の後、国立循環器病センター等を経て現職。

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