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なぜ「成長する若手」と「成長しない若手」が生まれるのか 後者を前者に変えるには?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「成長しない若手」と「成長する若手」の違いは?
「成長しない若手」と「成長する若手」の違いは?

 たいていの企業には成長著しく、周囲の期待を集める若手社員が存在する一方で、本人は一生懸命仕事をしているつもりなのに成果が出ず、なかなか成長しない若手社員もいるものです。現場を預かる管理職としては「採用担当者は何をやっているんだ!」と言いたくなるかもしれませんが、人事部はもちろん、きちんとした評価基準を持って採用活動をしています。ではなぜ、「成長する若手」と「成長しない若手」が生まれてしまうのでしょうか。そして、「成長しない若手」を「成長する若手」に変える方法はあるのでしょうか。

「どれだけ成長しそうか」は重要な評価基準

 ご存じのとおり、日本では新卒一括採用が広く行われており、企業では入社後の育成を前提として、ポテンシャル(潜在能力)を評価する選考がなされています。別の言い方をすれば、学生の「現在」だけではなく、入社後の成長、つまり、「未来」を見て評価するということです。

 そういう背景もあり、企業は採用時にその人の「成長力」や「伸びしろ」があるかどうかを重点的に評価しています。その評価基準は主に、過去に入社した人で成長した人、そうでなかった人の特徴を抽出して作られています。それらの基準は会社や仕事によってもちろん異なるのですが、ここからは、多くの会社で共通する基準について考えてみます。

「自分のことをきちんと分かっているか」

 1つ目は「自己認知の高さ」、つまり、「自分のことをきちんと分かっているか」ということです。自分の能力や性格の長所・短所が分かっていなければ、長所を伸ばしたり、短所を埋め合わせたりするような行動は取れないからです。実際には「できていない」のに「できている」と思っていては改善できるはずがありません。

 自己認知が高い人には、さらに特徴があります。それは他者からのフィードバックをきちんと聞き、受け入れられるということです。思い込みが強く、他者のフィードバックを頭から否定する人はなかなか、自己認知が向上しないようです。

「当たり前水準がどれほど高いか」

 2つ目は「当たり前水準の高さ」です。「当たり前水準」とは例えば、「どれくらい頑張れば、十分に頑張ったと思うのか」とか、「どれくらいの成果が出れば、十分な成果と言えるのか」という個々人の中にある「水準」のことです。

 同じことをしていても「自分はものすごいことを成し遂げた」と自信満々になる人もいれば、「自分のしたことはそれほどたいしたことはなく、まだまだ頑張らなければ」と謙虚に捉え、さらなる努力をしようと思う人もいます。そして、もちろん、持てる能力が同じなのであれば、それをもっともっと発揮しようとする後者の方が成長するわけです。

「仕事を楽しめるか」

 3つ目は「意味づけ力の高さ」です。人間とは意味を求める動物です。「人生には意味がない」とか、「自分の仕事に意味を感じない」と思ってしまうと、モチベーションは下がってしまいます。その「意味づけ」を誰かから与えてもらえないとできない人と自分でできる人がいます。

 前者はよい上司やリーダーに恵まれて、モチベートしてもらえば頑張ることができるのでしょうが、そうでなければ、「この仕事はつまらない」と思い、パフォーマンスは下がるかもしれません。後者はどんな仕事であっても「どうせやるなら楽しもう」と、自分のキャリアや成長にとって、何か役立てるような意味を見いだして楽しむわけです。そして、これまたもちろん、楽しく仕事をする方がパフォーマンスも上がり、成長もするということです。

若手を成長させるためには

 この「自己認知」「当たり前水準」「意味づけ力」という、成長を促進する3つの資質は、筆者の実体験から正直に申し上げますと、なかなか変わりにくい資質であるように思います。そのため、多くの企業では、それを採用時という入り口の基準としているわけですが、面接官の目も決して完璧ではなく、あるいは、3つの資質がそろった志望者が少ないといった事情から、「成長しない若手」が入ってくることはあり得ます。

 ただし、若手であれば、まだまだ脳の可塑性も高く、筆者のようなおじさんよりは変わり得ると思います。ですから、自分の会社の若手にこの3つの資質が足りないと感じたからといって、切り捨てないでいただきたいのです。この記事も、少子化・人手不足で希少な存在である若手を選別するために書いているのではなく、育成の方向性を考えるきっかけにしてほしいと思って書いています。

 では、どうすればいいのでしょうか。それはここまで述べてきた「自己認知」「当たり前水準」「意味づけ力」を促進する動きを若手に対して行うことです。「自己認知」を高めるためには、適切なフィードバックを行いましょう。ただし、若手の短所を、言葉を選ばずにストレートに告げて、心に傷を付けてしまっては意味がありません。日本人的に遠回しな表現を使って、優しく伝えてあげましょう。

「当たり前水準」を高めるためには、高い「当たり前水準」を持つチームに放り込んであげることが必要です。人はペーシングといって周囲に合わせていく性質があります。周りの「当たり前水準」が高ければ、自然にその人の「当たり前水準」も高まっていきます。

「意味づけ力」を高めるのが最も難しいのですが、まずは上司である自分自身が仕事に感じている面白みややりがいを熱く語ってあげましょう。そこに共感すれば、若手も「自分も仕事にそういう意味を感じる」と思ってくれるかもしれません。

 自分とはタイプが違いそうだと思っているなら、育ってほしい若手が共感してくれそうな先輩、ロールモデルとなるような人に仕事を語ってもらうことでも構いません。何もすべて自分でする必要はなく、貴重な若手人材は周囲のオトナたち全員で、育つサポートをすればよいのです。このようにして、多くの若手が育つ職場をつくっていくことがオトナの責務ではないかと筆者は思います。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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