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中国で「塾禁止令」、親や教育界に激震 背景にある大きな社会課題とは?

早くも「抜け道」探し

Q.親たちの反応はどうでしょうか。

青樹さん「二極分化しています。先述した男の子の母親は『じゃあ、塾をやめよう』となったのですが、『塾が中止されても、学外教育はやめさせない』という親の方が多いです。ある母親は、双減政策の前は毎日、娘の学校が終わると、塾に車で送る生活だったと話していました。

国語、算数、英語、ピアノ。塾が終わるまで外で待つのですが、夏は車の中が暑くなるので、折り畳みのいすを持参して、外で待つ生活を何年も続けたそうです。その母親はメディアの取材で『双減政策で負担がなくなったのでは?』と問われ、『とんでもない!』と即否定。彼女が最初にやったことは、成績のレベルが似通っている子どもを探して、家庭教師を雇ったそうです。

裕福な家庭は1対1の家庭教師を頼むのですが、すべての家庭がそんな費用を出せるわけではありません。有名校の先生を雇うために、2人とか3人とか、ミニグループで先生を依頼するわけです。塾よりは費用が高くなりますが、成績を維持するために、学外教育をやめることは考えなかったとのことです」

Q.塾禁止令は中国の教育を変えるのでしょうか。

青樹さん「中国には『上に政策あれば、下に対策あり』という言葉があります。政府がどんなことを決めても、みんな対策というか、抜け道を考えるという意味です。例えば、英語の塾が書店に変わった事例があります。店長は塾の校長先生だった人です。月額800元(約1万3500円)で貸本をするのですが、中国の本はそんなに高くありません。

元校長先生は『うちはサービスが超一流。本を貸し出すときに講義がおまけについてくる。英語の本を借りて、分からない所があったら、服務員に聞けばいい』と話します。服務員は塾の先生だった人というからくりです。カフェのテーブルに生徒が集まり、スマホを見ている光景も増えたそうです。イヤホンを付けて、一見、自習しているように見えるのですが、実は画面では先生が講義中。オンライン授業です。

このような抜け道が既にいくつか生まれています。中国では、学歴が人生を変えるといわれています。子どもたちは生まれたときから、いい大学に入るための運命の2日間、全国統一の大学入試『高考』を目指して猛勉強を強いられます。これが変わらない限り、いくら教育改革といっても変わりません」

Q.では、今回の「双減政策」では、実質的には何も変わらないということでしょうか。

青樹さん「いいえ。私の個人的な見方かもしれませんが、10代、20代の若者たちが徐々に常識を変えていくのではないかと思います。スポーツの世界の話ですが、東京五輪の卓球競技で、日本人選手に敗れて号泣する中国代表の選手に『結果はどうあれ、あなたたちは中国の誇り』という声が上がりました。

2016年のリオ五輪では、水泳で決勝進出を決めた中国の女子選手にインタビュアーが『決勝でもっといいタイムを出せそうですね』と水を向けると、彼女は『私はこのレース(準決勝)で全力を尽くしたから満足です』と答えたのです。こうした反応は、過去の中国ではなかったことです。

『何がなんでも金メダル!』『中国が1番になるんだ!』という風潮が若者の間では薄くなっているようです。『全力を尽くした(洪荒之力)』は2016年の流行語になりました。1990年代、2000年代生まれの若者が中国社会の中枢を占めるようになると、教育の世界でも、科挙以来の学力を絶対視する伝統的な考え方が変わっていくかもしれません。若者たちが少しずつ、中国社会を変えていく可能性はあります」

(オトナンサー編集部)

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青樹明子(あおき・あきこ)

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家

早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了。大学卒業後、テレビ構成作家や舞台脚本家などを経て企画編集事務所を設立し、業務の傍らノンフィクションライターとして世界数十カ国を取材する。テーマは「海外・日本企業ビジネス最前線」など。1995年から2年間、北京師範大学、北京語言文化大学に留学し、1998年から中国国際放送局で北京向け日本語放送のキャスターを務める。2016年6月から公益財団法人日中友好会館理事。著書に「中国人の頭の中」「『小皇帝』世代の中国」「日中ビジネス摩擦」「中国人の『財布の中身』」など。近著に「家計簿から見る中国 今ほんとうの姿」(日経プレミアシリーズ)がある。

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