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堀越高・元生徒の女性が訴訟へ 校則で「男女交際禁止」、違法ではない?

「男女交際禁止」を校則に定める高校は全国に複数存在するようですが、教育とは関係ない男女交際を校則で禁止することは、違法ではないのでしょうか

「男女交際禁止」の校則、違法ではない?
「男女交際禁止」の校則、違法ではない?

「男女交際を禁止する校則に反したという理由で、自主退学を勧告されたのは不当」だとして、堀越高校(東京都中野区)の生徒だった女性が先日、同校を運営する学校法人堀越学園に約370万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたと報道されました。ネット上の投稿を見ると、堀越高校に限らず、「男女交際の禁止」を校則に定めている学校が複数存在するようですが、教育とは関係ない男女交際を校則で禁止することは、違法ではないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

私立校は校則に広い裁量

Q.「男女交際の禁止」を校則に定めることは違法にならないのでしょうか。

佐藤さん「『男女交際の禁止』を校則に定めることは、高校生の交際する自由を制約することになります。裁判例の中には、恋愛関係を結ぶことを『人としての本質に関わり、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権』に基づく行為であるとして、『幸福追求権』(憲法13条)の一つと位置付けたものもあります。従って、『男女交際の禁止』を定めた校則は重要な権利を不当に制約するものとして、違法とされる可能性もあります。

しかし、特に建学の精神を大切にする私学の高校の場合、学校側にはさまざまな校則を定める広い裁量があります。生徒も一般的には、建学の精神や教育方針に納得し、そのような教育を受けることを希望して入学するとされています。そのため、実際の裁判では、これらの事情も考慮した上で、男女交際を校則で禁止する理由が合理的なものなのか、教育方針と校則との関連性などが争われ、結果的に校則自体は違法ではないと判断される可能性の方が高いと思います」

Q.堀越学園への損害賠償請求訴訟ですが、同様の事例に関する裁判は過去にありますか。もしあれば、その裁判はどのような判決となったのでしょうか。

佐藤さん「『男女交際の禁止』を定めた校則の違法性が争われたケースは、まだないのではないかと思います。一方、『男子生徒に丸刈りを強制する校則』『パーマを禁止する校則』『バイクの免許取得を制約する校則』が問題となった裁判はあります。ただし、いずれも校則自体を違法とは判断していません」

Q.堀越学園への損害賠償請求訴訟では、損害賠償が認められそうでしょうか。

佐藤さん「今回の訴訟で、一定の損害賠償が認められる可能性はあるのではないかと思います。先述したように、校則自体が違法とまでは認められないかもしれませんが、本件では、校則違反を理由に自主退学勧告が行われており、そのやり方などに問題があったと判断されれば、退学に至る手続きについて違法性が認められる可能性はあるでしょう。

自主退学勧告とはいえ、事実上、学校から強制されており、退学処分に近いケースもあります。学生の身分を奪う重大な勧告ですから、対象の生徒の言い分をきちんと聞いたのか、聞き方に問題はなかったのか、聞いた上で教育的な指導をしたのか、教育的指導なしにいきなり勧告に至ったのか、などが問題とされるのではないでしょうか」

Q.一般的に見ると理不尽な校則であっても、裁判では違法性が認められないようですが、教育や学校の秩序を守るためには、子どもの人権を侵害すること、あるいは、多少は制約することも認められるのでしょうか。

佐藤さん「教育や学校の秩序を守るため、一定のルールが必要になる場合はあるでしょう。また、先述したように、私立の学校では建学の精神に基づく独自の教育方針を具体化するものとしての校則を認める必要もあります。

しかし、子どもの人権の制約につながる校則については慎重に考えるべきです。特に、人権制約につながる校則を処分を伴って強制すると違法になる可能性もあります。先述した『丸刈り校則』の裁判で、裁判所は『丸刈り校則に違反した生徒に対して、処分はもとより直接の指導すら行われていないこと』を一つの理由として、『校則自体は違法ではない』と判断しています。つまり、処分を伴えば、違法になる可能性があるということです。

また、校則で子どもの人権を制約することは日本も批准している『子どもの権利条約』との関係でも問題になります。子どもの権利条約は、子どもの人権を制約する場合は法律で定めるよう求めていますが、校則の法的根拠は必ずしも明らかではないからです」

Q.そもそも、「男女交際の禁止」など世間から批判されそうな校則も、学校側は入学前に受験生とその親に知らせているのでしょうか。知らされずに、入学して初めて知った場合でも、調べなかった生徒側の過失でしょうか。

佐藤さん「最近では、開かれた学校づくりを推進するため、校則をホームページなどで公開している学校や地域もあります。一方、校則を公開していない学校もまだたくさんあり、全ての受験生や保護者が入学前に校則の内容を知ることができる状況にはありません。知らずに入学したことを生徒側の過失だと一概にいうことはできないでしょう」

Q.理不尽な校則は世間の目が厳しくなり、徐々に減少していくとは思いますが、完全になくなったわけではありません。入学前に、そうした校則があるのかないのかを調べることは必要ですか。

佐藤さん「校則の内容が気になる場合は、自ら学校に問い合わせて聞いてみるとよいでしょう。また、入学後も校則は毎日の生活に直接関わる身近なルールなので、おかしいと思ったら声を上げ、みんなで議論していくことも大切かと思います」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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