メガベンチャー創業社長が採用面接官を“クビにされた”理由【就活・転職の常識を疑え】
就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。
採用試験の面接官として、その会社で高業績を出している「スター社員」が出てくることがあります。「能力のある新人を採用するには、能力のある人が面接すればいい」という考えかもしれませんが、果たして本当でしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。
「スター社員」=「いい面接官」?
先日、あるメガベンチャー出身の方とイベントでお話しした際、印象深い話がありました。それは、その会社の著名な創業社長が採用面接の面接官から外されたという話でした。
面接官ごとに、採用した社員の「面接での評価」と「入社後の評価」がどれだけ相関しているかを調べたところ、その創業社長が「(採用面接では)人を見る目がない」ことがはっきりしたため、それを上申。すると、社長が自ら身を引いたというのです。上申する社員も身を引く社長も「すごいな」と思いました。
それはそれとして、やはり「会社のスター=高業績者」が「=いい面接官」というわけではないのだと再認識しました。そういう現象が起きる理由は、仕事上で何かを実行できることと、それを「形式知化」(≒言語化)して理解したり、説明したり、見極めたりすることとは違うからです。
スポーツの世界で考えてみましょう。どんなに素晴らしいプロスポーツの選手にもコーチがついていますが、コーチはたいてい選手よりは下手です。また、プロのスカウトも、よい選手を見極める能力はあっても、選手よりも下手かもしれません。
ビジネスでも同じだということです。採用担当者や面接官を選ぶ際、社内の高業績者にすればよいかというと、そう単純なことではないのです。
プロフェッショナルとは「無意識の人」
なぜ、高業績者が「形式知」が得意とは限らないかというと、卓越したプロは無意識のうちに、すらすらとそのタスクをこなせる人だからです。「自分がしていること」を意識していないことも多々あります。むしろ、「意識しないで、できる」ような訓練をしているわけです。
英語をすらすらと話せる人は、話す際に英文法を意識していないため、英語教師ができる人とは限りません。自転車に乗れる人は、自分の体の筋肉のどこをどう使って自転車に乗れているのかを意識していないので、子どもが自転車に乗れるよう教えられるかどうか分かりません。その道のプロが「自分がなぜプロであるか」を説明できるとは限らないのです。
さらに、問題なのは「自分がやっていること」を意識できていないスター社員が「なぜ、あなたは高業績を出せているのか?」と問われ、頭だけで考えた「こうなんじゃないか」という仮説を話してしまうケースです。
スター社員に悪意があるわけではないのですが、やっていることと言っていることが違うのです。そして、その仮説はたいていの場合、いわゆる「社会的に望ましい」一般論であり、自社の仕事に当てはまるかどうかは分からず、誤っている場合もよくあります。別に彼らが悪いわけではありません。聞く方がそれをうのみにしてしまうのが悪いのです。
よい面接官はクールな観察者
それでは、よい面接官はどのような人なのでしょうか。それは、先入観や偏見などの心理的なバイアスを持たずに、採用候補者のことをきちんと見ることができる人です。
精度の高い採用面接法についての理論はいろいろありますが、多くの理論がベースとしているのが「客観的な事実をベースにして、その人の能力・性格・価値観などを推測せよ」ということです。
事実から推論することで、人を見るゆがみを排除するのです。それができる人はある意味、冷静でドライな人かもしれません。経営者やスーパープレーヤーに多そうな、情熱的でウエットな人とは違いそうです。
彼らには「人を見極める役割」ではなく、「人を口説く役割」を担ってもらう方がよい場合も多いと思われます。例えば、内々定者の集まりや内定式でスター社員が話せば、入社意欲の高まりや定着率のアップに貢献できるのではないのでしょうか。
(人材研究所代表 曽和利光)
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