オンライン時代に落ちこぼれるマネジャーにならないために【就活・転職の常識を疑え】
就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。今回は、少し年齢層が上の人たちに向けてお話します。
緊急事態宣言が5月25日に全面解除され、「アフターコロナ時代」「ウィズコロナ時代」が徐々に本格化してきました。ただ、こと働き方に関して言えば、筆者個人の感覚では、オンライン会議もテキストチャットもSNSも仕事で普通に使っていましたし、そもそも、オフィスに入り浸る生活はあまりしていなかったので、コロナによって社会全体で進化が早まったというだけで、それほど非連続で質的な変化ではないように思えます。
「遅かれ早かれ来るものが来た」ということではないでしょうか。ただし、スピードは急激だったので、マネジャーや経営者など、われわれおじさん世代は頑張ってキャッチアップしないといけないのも事実です。
非言語コミュニケーションの性質を知る
まだ結論づけるのは早計かもしれませんが、結局、超簡単にまとめると、「コロナ禍対策」の影響は、仕事をする際のコミュニケーション方法の選択肢が増えたということに尽きるのではないでしょうか。
全部リアルでやっていたものをオンラインで、映像やテキストを用いてやることもできるようになった。それを社会全体で強制的にレベルアップさせられた(してもらった)ということです。ある意味便利な世の中になったとも言えます。選択肢が増えるのはよいことです。ただし、「適切に選べるようになる」ことと「苦手なものに慣れる」という作業だけは必要になってしまいました。
適切なコミュニケーション方法を選ぶのに必要な知識はオンラインコミュニケーションの特徴、裏を返せば、オンラインによって激減する非言語コミュニケーションの性質をきちんと知ることです。それによって何が起きるかを知ることで、どのようなタイプの仕事ならリアル、これなら映像、これならテキストチャットと適切に選べるようになっていきます。
非言語コミュニケーションの特徴は、実は既に結構研究されており、ネットで検索していただければ分かるので詳細は省きます。テキストチャットは創造性が高いとか、映像より音声だけの電話の方が親近感が湧くとか、面白い事実が発見されています。
このような研究成果などのエビデンス(証拠、根拠)をきちんと押さえておくことは、適切な選択のために必要なのはもちろん、それよりも重要な意味があります。それは、個々人にはコミュニケーションスタイルの好き嫌い、得意不得意があるため、どんなコミュニケーション方法を選んでも全員が納得することはなく、納得感ある合意形成を行うためにもエビデンスの力が必要だということです。
エビデンスなしに「この会議はリアルで」と言っても、「また、あの情弱(情報弱者)おやじが…」と思われるのが関の山です。科学的事実に基づいた説明をすることによって、きちんと納得して仕事をしてもらわねばなりません。
「言語化」徹底で無用な「不文律」消滅
もう一つやらねばならないのは、これまでは「あうんの呼吸」「以心伝心」「察しろ」「空気を読め」「良きに計らえ」だけで済ませてきたことを、すべて言語化する努力をすることです。
オンライン化=非言語の排除=言語化です。「言葉にできない」などと言っている場合ではありません。オンラインにおいて「言葉にできない」ものは伝わらない、つまり「ないもの」です。非言語コミュニケーションにたけていた人ほどスキルチェンジは難しいですが、やるしかありません。自分でできないなら、若手と組んで観察してもらい、言語化を手伝ってもらってもよいでしょう。
今まで無意識でやっていたものを言語化する作業はかなりきついものですが、大きなメリットがあります。それは、無意識でやっているルール、つまり「不文律」はとても変えにくいもので、もう役割を終えた「無用の長物」的ルールも温存されてしまうのに対して、きちんと言語化していく過程で精査すると「よく考えれば、これはこうでなくてもいいなあ」と断捨離できるということです。
指示を受ける側も無駄なことをしなくて済むようになりますし、チーム全体の生産性も上がるでしょう。そう考えれば、これを機会に、生産性向上を目的に言語化の努力をするのも悪くないのではありませんか。
ピンチをチャンスに
新しい働き方、新しいコミュニケーションは適応するのにパワーを使うため、ややもすれば、「元に戻したい」と思ってしまうかもしれません。しかし、残念ながら、おそらく若手層・優秀層を中心に、新しいものの便利さを知ってしまった人たちがそれを手放して元に戻るとは思えません。
オンライン時代にも適応するマネジャー、リーダー、経営者になっていくには、もう覚悟して前に進むしかないのです。しかも、苦労の先にはメリットが待っています。ぜひ、皆さん、一緒に新しい働き方に適応していきましょう。
(人材研究所代表 曽和利光)
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