オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

おまえらのを譲れ! 店員にマスクを過剰要求する「カスハラ」、法的問題は?

新型コロナウイルスの感染拡大の中、マスクが欠品しているドラッグストアの店頭で「なんでマスクがないんだ!」と店員に詰め寄る客がいます。過剰な要求行為などに、法的問題はないのでしょうか。

悪質な客に法的問題は?
悪質な客に法的問題は?

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴うマスクの品薄状態を受け、マスクが欠品しているドラッグストアやコンビニの店頭で「なんでマスクがないんだ!」と詰め寄る客がおり、対応に困っている店員がいるとの投稿が、ネット上で話題になっています。

 店員は感染拡大防止のためにマスクをしているケースが多いのですが、それに難癖を付け、「なんで、おまえだけマスクを付けているんだ」「おまえらの分を譲れ」と迫る客までいるようです。

 こうした客の行為に法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

強要罪や威力業務妨害罪の可能性

Q.マスクの欠品について、店頭で延々と店員に抗議する客の法的責任を問うことはできないのでしょうか。

牧野さん「こうした行為は、いわゆる『カスタマーハラスメント(カスハラ)』です。ドラッグストアなどの現場では、スタッフが疲弊しており、一種の社会問題と化しています。しかし、延々と抗議するだけであれば、法的責任を問うのは困難でしょう。

ただし、店員や店長が『在庫はなく、入荷予定もないので、きょうはお引き取りください』とお願いしたにもかかわらず、延々と抗議を続けて、極端に長時間、店に居座った場合、刑法の不退去罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)が適用される可能性があるでしょう。過去には、ラーメン店で約3時間居座った男が逮捕された事例があります」

Q.「(店員用の)マスクを譲れ」と要求する行為に、法的問題はないのでしょうか。

牧野さん「強く要求すると、刑法上の『強要罪』(義務のないことを行わせる。3年以下の懲役)が成立する可能性がありますし、長時間にわたり、しつこくつきまとった場合には、店の業務を妨害しているとして『威力業務妨害罪』(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

さらにエスカレートして、店員に暴力を振るうと(店員がけがをしなくても) 『暴行罪』(2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料)、店員にけがをさせると『傷害罪』(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性があります。

また、暴言を吐いて多数の他の客の面前で店員の名誉を傷つけると『名誉毀損(きそん)罪』(3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金)や『侮辱罪』(公然と侮辱、拘留または科料)が成立する可能性があります。

民事上は、客が横暴な行為によって店員にけがをさせたり、精神的な損害を与えたりした場合、民法上の不法行為により発生した損害の賠償を請求できる可能性があります」

Q.特定の客の長時間、あるいは大声のクレームによって、うつ病などの精神疾患にかかった店員がいた場合、法的責任を問うことはできるのでしょうか。

牧野さん「民事上は、客が横暴な行為によって精神的な損害を与えた場合、民法の不法行為による損害賠償を請求できる可能性があります」

Q.「おまえらの分を譲れ!」と迫る客に抗しきれず、店員用の備蓄マスクを客に渡してしまった店員がいた場合、客、店員それぞれにどのような法的責任が生じるでしょうか。

牧野さん「強く要求すると、客の側に、刑法上の『強要罪』が成立する可能性があります。

一方、店員の行為はやむを得ない状況であれば、罪を問われない可能性が高いです。厳密にいえば、店員用マスクが店長の管理であれば『窃盗罪』、管理を店員が任されていれば『横領』『業務上横領』に該当する可能性があります。しかし、客にマスクを渡さなければ危害を加えられる可能性が高い場合は恐らく、『緊急避難』行為として違法性がなくなるでしょう。

『緊急避難』は刑法37条に定められており、『自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、または免除することができる』とあります」

Q.カスハラを受けて、けがをしたり、うつ病になったりした店員がいた場合、店側や経営者側に何らかの補償を求めることはできるのでしょうか。

牧野さん「労働契約法5条では『使用者(店や経営者、店を経営する企業)は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする』と定められています。

つまり、使用者(店や経営者、店を経営する企業)は労働者(今回の場合は店員)に対して、労務提供過程において身体や生命を保護するように配慮し、労働者の安全を確保すべき義務(安全配慮義務)を負います。労働者が店舗で接客している最中に、カスハラにより身体や生命に損害が発生した際は、使用者に対して損害賠償を請求することができます」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

コメント