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中国大使館が新型コロナを“日本肺炎” デマ拡散が映す日中「漢字」ギャップ

日本人は中国人と同じく漢字を使いますが、日本人が認識する漢字の意味や読み方と、中国人のそれが異なるケースがあります。どのような違いがあるのか、専門家が解説します。

香港の空港で売られていた老婆餅の表示(中島恵さん提供)
香港の空港で売られていた老婆餅の表示(中島恵さん提供)

 先日、「駐日中国大使館が新型コロナウイルスを『日本肺炎』と呼称した」というデマが日本国内で出回り、騒動になりました。日本人は中国人と同じく漢字を使いますが、日本人が認識する漢字の意味や読み方と、中国人が認識するそれとは異なるケースがあり、誤訳や誤解が生じて騒動になることがあります。

 どのような漢字に意味や読み方の違いがあるのか、日中の異文化ギャップを数多く取材している筆者が解説します。

「湯」「手紙」「飯店」…

 3月上旬、日本のツイッター上で「駐日中国大使館が新型コロナウイルスを『日本肺炎』と呼称した」というデマが巻き起こり、騒動になったことを覚えている人は多いと思います。2月下旬、大使館が公式サイトで在日中国人向けに送ったメッセージに端を発したもの。その中国語とは以下の文章でした。

「目前、日本新型冠状病毒肺炎疫情不断変化、我在日同胞対比高度関注」
(目下、日本での新型コロナウイルスの感染状況は常に変化しているため、日本に住む同胞から高く注目されている)

 このうち、冒頭の「日本新型冠状病毒肺炎」という部分を見た日本人が、中国大使館が「日本肺炎」と訳したのだと誤解し、「中国人が、なんと新型コロナウイルスのことを日本肺炎と呼んでいる!!」とツイッターで拡散してしまったことが原因でした。

 その後、大使館がそのツイッターに反応して誤訳であることを指摘し、一件落着となりましたが、中には「本音では、やっぱり日本肺炎と言いたかったんじゃないの?(中国人ならあり得る)」と、うがった見方をしていた人もいました。

 筆者はこのニュースを見たとき、「故意にせよ、無意識にせよ、このような誤訳や誤解が生じてしまうのは、そもそも日本語と中国語が同じ漢字を使っているからだ」と痛感しました。

 では、同じ漢字を使うからこそ生じる誤解は、他にもあるのでしょうか? すでに日本で有名な事例もありますが、以下、中国語を知らない人が間違えてしまうものを紹介しましょう。

【湯】
中国語では「スープ」という意味。中国で「お湯」は「開水」といいます。日本で「銭湯」といえば、お風呂屋さんのことですが、中国人が見れば意味不明です。

【手紙】
中国語では「トイレットペーパー」という意味。日本語の「手紙」は、中国語では「信」といいます。

【飯店】
中国語では「ホテル」という意味。日本では中華料理店の看板に「○○飯店」と書いてあるので間違いやすいです。ちなみに中国語の「酒店」も、酒屋さんではなく「ホテル」の意味。どちらかというと、中国の南方では「酒店」という表記を使うことが多いですが、どちらも「ホテル」です。

【老婆】
中国語では「奥さん」「妻」という意味。「おばあさん」ではありません。「奥さん」は他にも複数の言い方があり、「愛人」も「奥さん」(または夫、配偶者)という意味です。

ちなみに、香港には「老婆餅」という有名なお菓子があり、空港などで販売されているのを見ると日本人はギョッとしますが、観光客向けに「ワイフ(奥さん)ケーキ」とちゃんと表示されています。

【先生】
中国語では「夫」や「Mr.」の意味。教師は「老師」というのが一般的です。

【娘】
中国語では「お母さん」という意味。アイドルグループの「モーニング娘。」は中国流に訳せば「モーニングお母さん。」になってしまいます。

【勉強】
中国語では「無理に」という意味。中国で「勉強」は「学習」といいます。

【経理】
中国語では「マネジャー」「部長」などの役職を表します。「総経理」は社長の意味です。日本の経理担当のような意味はありません。

【部長】
中国語では「大臣」という意味。ニュースなどでも見かけますが、外交部長といえば外務大臣のことをいいます。企業の人事部長なら、中国では「人事部長」とはいわず、「人事部経理」といいます。

【走】
中国語では「歩く」という意味です。

【猪(イノシシ)】
中国語では「豚」という意味。中国で「猪」のことは「野猪」といいます。干支(えと)の「いのしし年」は、中国では「豚年」になります。

【汽車】
中国語では「自動車」のことです。日本語の「汽車」は、中国語では「火車」といいます。

 このように、日本と中国は同じ漢字を使うからこそ「文字を見ればきっと通じ合うものだ」と思い込み、誤解してしまうような紛らわしい単語が多いのですが、意味はかなり違うものもあります。

 笑い話で済めばよいのですが、冒頭に書いた「日本肺炎~~」のようにトラブルとなることもあります。誤解をそのままにしてしまうと、大きな国際問題や国家間の摩擦に発展してしまいかねませんね。

 日中双方とも、SNSの発達により情報量は増していますが、誤解がなくなったわけではありません。お互いに相手の腹の内がよく分からないと、悪い意味に受け取ってしまう可能性もありますので、気を付けたいものです。

(ジャーナリスト 中島恵)

中島恵(なかじま・けい)

ジャーナリスト

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学留学。中国、香港、韓国など主に東アジアの社会、ビジネス事情などについて執筆している。著書は「なぜ中国人は財布を持たないのか」「日本の『中国人』社会」「中国人は見ている。」(いずれも日本経済新聞出版社)「中国人エリートは日本をめざす」(中央公論新社)「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(プレジデント社)など多数。

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