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「飽き」ではなく「快適」になったときが転職のタイミング【就活・転職の常識を疑え】

就職活動や転職活動には、さまざまな「常識」があります。しかし、それは本当に正しいのでしょうか。企業の採用・人事担当として、2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

仕事が快適なときこそ転職のタイミング?
仕事が快適なときこそ転職のタイミング?

 キャリアアップを目指す若者が仕事に慣れてくると、仕事に「飽き」が来てしまうことがあります。そんなとき、「このまま続けても成長がない」と転職を考えるのが常識と思うかもしれませんが、そこには落とし穴があります。企業の採用・人事担当として、2万人超の面接をしてきた筆者が「仕事に飽きがきた」ときではなく、「仕事が快適になった」ときこそ転職を考えるべき理由を解説します。

「飽き」はもう少しで壁を破れる証拠

 キャリアとは、履歴書上を埋める経歴のことではありません。キャリアの本質は、自らの能力を高めていくことでやりたいことができるようになったり、世の中の役に立てるようになったりすることです。言い換えれば、仕事を通じてどのような能力を獲得するのか、それがキャリアを積み重ねていくということではないでしょうか。

 高年齢になっていけばいくほど、その能力をいかに使うのかというところに視点が置かれるわけですが、逆に、若い人はどんな能力を身につけるのかの方が重要です。若者にとっては、「キャリア開発」とは、ほぼ「能力開発」を指すといってよいかもしれません。

 そこで、多くの若者は自分を成長させてくれる会社や仕事を探しています。実際、いろいろな調査でも「どれだけ成長できるか」が会社選びで最も重視する項目になっています。もちろん、このこと自体は大変よいことです。しかし、成長にフォーカスするあまり、陥る落とし穴もあります。

 それは「仕事に飽きて転職を考えてしまう」ということです。仕事に慣れてくると、それほど苦労せずにこなせるようになり、やがて飽きがきます。自然な現象ともいえますが飽きると、成長を急ぐ心は「また別のことをしなくては」と思うわけです。そこで転職して新しいことにチャレンジしようとするのです。

 しかし、そこで立ち止まって内省してもらいたいのが、その「飽き」はどのようなものかということです。もし、あなたが「毎日同じことの繰り返しで退屈になっている」という「飽き」を感じていたとすれば、もしかすると転職はもう少し待った方がよいかもしれません。

 なぜなら、その状態ではまだ、自動的にスラスラと仕事ができるようになっていない、能力が身についていないかもしれないからです。無意識でやれるようになって初めて、後戻りなく能力が身につくのですが、まだ意識的に考えなければ動けないうちはそのレベルにありません。

 そこで辞めてしまうと、せっかくのそれまでの努力が水の泡になってしまうかもしれないのです。もう少しでその能力が身につくかもしれないのに。

「飽き」を耐え、「快適」を捨てられるか

「飽き」をもう少し我慢すれば、そのうち無意識で仕事がスラスラできるようになります。すると「飽き」という主観は芽生えず、むしろ「快適」になるでしょう。これが、能力が身についた証拠です。ここまで来れば、転職もよいかもしれません。仕事を変えても、その能力はなかなか落ちないからです。

 しかし、人間は難しいもので、次に待っている関門は「快適」を捨てて、自分の意思で再び能力獲得の「困難な道」に進めるかということです。「快適」を捨てられずに成長機会を逃す人は多いものです。「飽き」は耐え、「快適」は捨てる。能力開発を第一とする若い時期には、これができるかが勝負ではないでしょうか。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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